・・・すると、いやそれでは困る、それであなたの方でそう怒るなら私の方でも申しあげますが、いったい今度の会をやるということと、倉富さんが評論を書くということは、最初から笹川さんの出版条件になっております……と言うんじゃないか、それでもまだ君は……」・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ まあ帰ってからゆっくりと思って、今日見つけた家の少し混み入った条件を行一が話し躊っていると、姑はおっ被せるように「今日は珍しいものを見ましたよ」 それは街の上で牛が仔を産んだ話だった。その牛は荷車を牽く運送屋の牛であった。荷物・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・ さあその条規も格別に、これとむつかしいことはなく、ただその閣令を出す必要は、その法令を規定したすべての条件を具えたものには、早速払い下げを許可するが、そうでないものをば一斉に書面を却下することとし、また相当の条件を具えた書面が幾通もあ・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・其方で木戸を丈夫に造り、開閉を厳重にするという条件であったが、植木屋は其処らの籔から青竹を切って来て、これに杉の葉など交ぜ加えて無細工の木戸を造くって了った。出来上ったのを見てお徳は「これが木戸だろうか、掛金は何処に在るの。こんな木戸な・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・それが夫婦生活を固定させた大きな条件なのだから、したがって、夫婦愛は子どもを中心として築かれ、まじめな課題を与えられる。恋愛の陶酔から入って、それからさめて、甘い世界から、親としてのまじめな養育、教育のつとめに移って行く。スイートホームとい・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・結局、こっちの条件が悪く、負けそうだったので、持って帰れぬ什器を焼いて退却した。赤旗が退路を遮った。で、戦争をした。そして、また退却をつづけた。赤旗は流行感冒のように、到るところに伝播していた。また戦争だ。それからどうしたか?…… 雪解・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・竿というものは、節と節とが具合よく順に、いい割合を以て伸びて行ったのがつまり良い竿の一条件です。今手元からずっと現われた竿を見ますと、一目にもわかる実に良いものでしたから、その武士も、思わず竿を握りました。吉は客が竿へ手をかけたのを見ますと・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・いまやわたくしは、これらの条件以外の死をとぐべき運命をうけえたのである。 天寿をまっとうするのは、今の社会ではなんびとにとっても至難である。そして、もし満足に、幸福に、かつできうべくんば、その人の分相応――わたくしは分外のことを期待せぬ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ば上手にも下手にも出所はあるべしおれが遊ぶのだと思うはまだまだ金を愛しむ土臭い料見あれを遊ばせてやるのだと心得れば好かれぬまでも嫌われるはずはござらぬこれすなわち女受けの秘訣色師たる者の具備すべき必要条件法制局の裁決に徴して明らかでござると・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・それに対して条件的という語がある。今では、絶対値の級数が収斂する意味に使うのです。級数が収斂し、絶対値の級数が収斂しないときには項の順序をかえて、任意の limit に tend させることができるということから、絶対値の級数が収斂しなけれ・・・ 太宰治 「愛と美について」
出典:青空文庫