・・・少なくも仮りに私が机の上で例えば大根の栽培法に関する書物を五、六冊も読んで来客に講釈するか、あるいは神田へ行って労働問題に関する書物を十冊も買い込んで来て、それについて論文でも書くとすればどうだろう。つまりはヘレン・ケラーが雪景色を描き、秋・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・たまたま来客でもあって応接していると、肝心な話の途中でもなんでも一向会釈なしにいきなり飛込んで来て直ちに忙わしく旋回運動を始めるのであるが、時には失礼にも来客の頭に顔に衝突し、そうしてせっかく接待のために出してある茶や菓子の上に箔の雪を降ら・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・たまたま来客でもあって応接していると、肝心な話の途中でもなんでもいっこう会釈なしにいきなり飛び込んで来て直ちにせわしく旋回運動を始めるのであるが、時には失礼にも来客の頭に顔に衝突し、そうしてせっかく接待のために出してある茶や菓子の上に箔の雪・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 来客用の団扇を買おうと思って、あちこち物色してみて気のついたことは、われらの昔ふうの団扇の概念に適合するようなものがほとんど影をかくしたことである。丸竹の柄の節の上のほうを細かく裂いて、それを両側から平面に押し広げてその上に紙をはり、・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ちょうど来客でもあってやむを得ず中止する時には、困ったという感じと、ちょうどいい時に来てくれたという考えとがいっしょになる。客が帰るとできそこなった絵をすぐに見ないではいられない。 あまり自分が熱中しているものだから、家内のものは戯れに・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・ 午前に私が刈り初めようとするとよく来客があった。そういう事が三四回もつづいた。来客を呼ぶおまじないだと言って笑うものもあった。これは無論直接の因果関係ではなかったが、しかし全くの偶然でもなかった。二つの事がらを制約する共通な条件はあっ・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ 今はどうか知らないが昔の田舎の風として来客に食物を無理強いに強いるのが礼の厚いものとなっていたから、雑煮でももう喰べられないといってもなかなかゆるしてくれなかったものである。尤も雑煮の競食などということが普通に行われていた頃であるから・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
子供の時分の冬の夜の記憶の中に浮上がって来る数々の物象の中に「行燈」がある。自分の思い出し得られる限りその当時の夜の主なる照明具は石油ランプであった。時たま特別の来客を饗応でもするときに、西洋蝋燭がばね仕掛で管の中からせり・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・とうとう二階の押し入れの襖を食い破って、来客用に備えてあるいちばんいい夜具に大きな穴をあけているのを発見したりした。もう子ねずみさえもかからなくなってしまった捕鼠器は、ふたの落ちたまま台所の戸棚の上にほうり上げられて、鈎につるした薩摩揚げは・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ 聞きたいと思う音楽放送がたまにあると、その時刻にちょうど来客があって聞かれないような場合がかなりに多い。来客がない時はまた何かに紛れて時刻をやり過ごし、結局聞かれない場合もかなりに多い。もしも、これが、どこかへ演奏会を聴きに行くのだと・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
出典:青空文庫