・・・谷川の末にはお婆さんが一人、日本中の子供の知っている通り、柴刈りに行ったお爺さんの着物か何かを洗っていたのである。……二 桃から生れた桃太郎は鬼が島の征伐を思い立った。思い立った訣はなぜかというと、彼はお爺さんやお婆さんのよ・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・、腰の周囲を軽くして、一ト筋の手拭は頬かぶり、一ト筋の手拭は左の手首に縛しつけ、内懐にはお浪にかつてもらった木綿財布に、いろいろの交り銭の一円少し余を入れたのを確と納め、両の手は全空にしておいて、さて柴刈鎌の柄の小長い奴を右手に持ったり左手・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・人のけはいがするのでふと見ると、今までちっとも気がつかなかったが、茂みの陰に柴刈りの女が一人休んでいた。背負うた柴を崖にもたせて脚絆の足を投げ出したままじっとこっちを見ていた。あまり思いがけなかったので驚いて見返した。継ぎは・・・ 寺田寅彦 「花物語」
出典:青空文庫