・・・ その日、丁度宿直に当っていた私は、放課後間もなく、はげしい胃痙攣に悩まされたので、早速校医の忠告通り、車で宅へ帰る事に致しました。所が午頃からふり出した雨に風が加わって、宅の近くへ参りました時には、たたきつけるような吹き降りでございま・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・ 大学在学中に、学生のために無料診察を引受けていたいわゆる校医にK氏が居た。いたずら好きの学生達は彼に「杏仁水」という渾名を奉っていた。理由は簡単なことで、いかなる病気にでもその処方に杏仁水の零点幾グラムかが加えられるというだけである。・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・「高等学校の校医の○○も、○○という体操教師も『君のにいさんはとても高等学校もよう卒業しまいと思っていたが、大学へ行くようになったから、存外かまわないものだ』と言ったと弟が話した。それを聞いてなんだか一種自分というものに対する責任が多少・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
出典:青空文庫