・・・ 人の事は云われないが、連の男も、身体つきから様子、言語、肩の瘠せた処、色沢の悪いのなど、第一、屋財、家財、身上ありたけを詰込んだ、と自ら称える古革鞄の、象を胴切りにしたような格外の大さで、しかもぼやけた工合が、どう見ても神経衰弱という・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・これは意外な事で嬉しさもまた格外であったが、少し不思議に思うたのは、何となく其処が人が作った畑のように見えた事である。やや躊躇していたが、このあたりには人家も畑も何もない事であるからわざわざかような不便な処へ覆盆子を植えるわけもないという事・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・私たちが偏らない心で今年の文学を思いかえしたとき法外・格外の傑作、問題作、前進的作品というものは作品活動一般についてなかったと判断するにかかわらず、作家たちの動きは特に今年の後半に到って夥しく、両者の間の動きの形は、作品がその自然の重さで水・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・その時、極く少数の作家がそれへの参加を拒絶したのであったが、ゴーリキイも自分の文筆の意味を全く正しく評価し、当時としては格外に高い原稿料を払ってその作をのせるという誘惑的な申出に勝った。 この場合、ゴーリキイが作家の価値及び一般急進的イ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・姑く今数えた人の上だけを言って見ように、いずれも皆文を以て業として居る人々であって、僅に四迷が官吏になって居り、逍遥が学校の教員をして居る位が格外であった。独り予は医者で、しかも軍医である。そこで世間で我虚名を伝うると与に、門外の見は作と評・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫