・・・ ――一つには峻自身の不検束な生活から、彼は一度肺を悪くしたことがあった。その時義兄は北牟婁でその病気が癒るようにと神詣でをしてくれた。病気がややよくなって、峻は一度その北牟婁の家へ行ったことがあった。そこは山のなかの寒村で、村は百姓と・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・彼は、一寸なにかやると、すぐ検束騒ぎをするここの警察をよく知っていた。 三人は、藤井先生の家へ行くことが出来なくなった。宗保は、薪を積みに行くという真実味をよそうため、途中で猫車をかりて、引っぱって山へ行く坂の道を登りだした。「今日・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・わがまま勝手の検束をやらかしてさ。よせやいだ。泣いたらウソだ。涙はウソだ、と心の中で言いながら懐手して部屋をぐるぐる歩きまわっているのだが、いまにも、嗚咽が出そうになるのだ。私は実に閉口した。煙草を吸ったり、鼻をかんだり、さまざま工夫して頑・・・ 太宰治 「故郷」
・・・そして憎ったらしく、検束者をでもするように、やけに引っ張った。髪の毛は汗でねばねばしていて、ふて腐れたように手にザワザワ捲きついて来た。 ――吉田さん、吉田さん。―― 暑苦しいために明けっ放した表から、誰かが呼んだ。 吉田はハッ・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
みなさん! 八十日間の検束の後自由を奪いかえして来た第一の挨拶を送ります。去る三月下旬以来、ファッショ化した帝国主義日本の官憲が狂気のような暴圧を日本プロレタリア文化連盟とその参加団体に加えつつあることはみなさん御承知・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・自分は八十二日間の検束から自由をとり戻した。 宮本百合子 「刻々」
・・・ 警察は、殺した小林多喜二の猶生きつづける生命の力を畏れて、通夜に来る人々を片端から杉並警察署へ検束した。供えの花をもって行った私も検束された。「小林多喜二を何だと思って来た!」そう詰問された。「小林は日本に類の少い立派な作家だと思うか・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・ 盗んだ、殺した、火をつけたという事件の容疑者が指紋をとられた、と同じに、思想上の問題で検束されたりした者が、指紋をとられた。思想の自由、言論の自由、そして良心の自由のない日本、警察国家の日本は、そういうところに権力の方法をあらわしてい・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・戦災者や引揚者が住むに家なく警察の講堂に検束される形でやっと雨露をしのぐ有様が一方にあるのに。 第三は、インテリゲンチャの間から野間宏、椎名麟三、中村真一郎氏その他の作家が注目すべき創作活動を行ったこと、勤労大衆の文化的活動がさかんにな・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・日本プロレタリア文化連盟婦人協議会会議中、全員検挙、一ヵ月検束された。日本のファシズムと侵略戦争に反対し、勤労階級の社会的発言の一つの現われとして活動をはじめた「日本プロレタリア文化連盟」参加の各団体は三月下旬の全国的弾圧のために、重大・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫