・・・而してその不思議な光は北極光の余翳であるのを略々確めることが出来た。北海道という処はそうした処だ。 私が学生々活をしていた頃には、米国風な広々とした札幌の道路のこゝかしこに林檎園があった。そこには屹度小さな小屋があって、誰でも五六銭を手・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・美しい極光を見た刹那に、肉体も、ともに燃えてあとかたもなく焼失してしまえば、たすかるのだが、そうもいかない。」「意気地がないのね。」「ああ、もう、言葉は、いやだ。なんとでも言える。刹那のことは、刹那主義者に問え、だ。手をとって教えて・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・それからその次に面白いのは北極光だよ。ぱちぱち鳴るんだ、ほんとうに鳴るんだよ。紫だの緑だのずいぶん奇麗な見世物だよ、僕らはその下で手をつなぎ合ってぐるぐるまわったり歌ったりする。 そのうちとうとう又帰るようになるんだ。今度は海の上を渡っ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・北極光の照らす深い北海の年々の集合所から真白い一匹の雄海豹のルカンノンが自分の躯にうずく希みにつき動かされて、海豹の群がまだ一度も潜ったことのない碧い水の洞をぬけて遠く遠く新しい浜辺を求めて行く冒険が情趣深く描かれている。 私たちの心に・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
出典:青空文庫