・・・まずその概観を得るがいい。それとともに倫理学史を読むべきだ。これは古今を縦に貫いて人間の倫理的思想が如何に発展し、推移して来たかを見るためである。後なるものは前なるものの欠陥を補い、また人間の社会生活の変革や、一般科学の進歩等の影響に刺激さ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それで一見いわゆるはなはだしく末梢的な知識の煩瑣な解説でも、その書き方とまたそれを読む人の読み方によっては、その末梢的問題を包含する科学の大部門の概観が読者の眼界の地平線上におぼろげにでもわき上がることは可能でありまたしばしば実現する事実で・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 帰りの汽車では忘れずに農園のチューリップと、チューリップの農園の概観を網膜に写すことによって往路の小発見の満足を蒸し返し完成することを忘れなかった。 関八州が急に狭くなったような気がして帰って来たが、東京駅から駒込までの馴れた道筋・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ このウエルズの文化史大系が、よりまとまりよく整えられて「世界文化史概観」となって発行されている。この概観は初め一九二二年に現れ、次いで一九三四年に改訂版が出た。ウエルズは大系を五分の一ほどに圧縮し、内容も殆ど全部かき直した。それはそう・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ いろんな本からひっぱりぬいちゃあ、書きとりにか□□(か、歴史上の概観だけをすっかり書いてしまう。大体割方は風俗史にならってそれからそれぞれを精しくやって見ようと云う目ろみである。徳川家康が江戸幕府をたてて徳川時代をつくるにほねのおれた・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ その経路を概観してみると、『猫』の次に『野分』において正義の情熱の露骨な表現があった。『虞美人草』に至っては鮮やかな類型的描写によって、卑屈な利己主義や、征服欲の盛んな我欲や、正義の情熱や、厭世的なあきらめなどの心理を剔抉した。その後・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫