・・・はる子は、不図散々知人の間を頭の中で模索した揚句、或る中年の婦人を思い浮べた。その人はこの頃大規模な辞書――百科全書を編纂していた。彼女の書店で、若しか一人若い筆の立つ女を助手として入用ではないだろうか。彼女自身役に立てる道はなくても、同じ・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・文学の様式或は場面の模索から一歩深いところで文学が生まれて来る動因になるのではないだろうかと思います。勿論時間と忍耐の要されることです。〔一九四一年七月〕 宮本百合子 「生活的共感と文学」
・・・ あの作品は、今日に到る日常生活の雰囲気の急転の初めの時期、客観的にも正しいと納得することの出来る生活の基準を模索していた一般の心理が、作者の或る意味での敏感な社会性に反映して生れた作品であった。作品の題名にも現れている作者の体勢が、人・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
一九三四年のブルジョア文学の上に現れたさまざまの意味ふかい動揺、不安定な模索およびある推量について理解するために、私たちはまず、去年の終りからひきつづいてその背景となったいわゆる文芸復興の翹望に目を向けなければなるまいと思・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・しかし、文学の方でもそうなのですが、その熱心と探究とは、まだほんとうに新しい芸術の水脈にあたっていないような、つまり摸索の形で、追求が受けとられました。 ですから、技術的な細かいことのわからない私たちには、追求のさまざまな現われが、疑問・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・p.245○限界のない人間は永遠のものに到達出来るけれども、模索することは出来ない p.246 芸術 ‥ の問題の根源として。 モラル ↓◎芸術は永遠に満たされぬ者にとってはただ一つの端初にすぎず、その・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・は中途の一節であるばかりでなく、わたしとして創作方法の発展の道ゆきからも、まだ中途であり、作者としてやっと一つの摸索の過程を通過したばかりである。このことは「二つの庭」「道標」第一部第二部、そして第三部と、それぞれの間に見られるむら――変化・・・ 宮本百合子 「「道標」を書き終えて」
・・・第一次大戦によって中流階級が生活の安定を破られ、これまでの社会秩序と価値評価のよりどころを崩壊させられたことから、こなごなになった小市民的観念と感覚のきらめき、模索。二十世紀のブルジョア文学の最後の段階としてこれらの現象が生れました。同時に・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・台所の柱に米が二升四合も入るぐらいの瓢をかけ、三方水で囲まれた粗末な小屋に芭蕉庵と名づけ嵐雪などと男世帯をもった三十七歳の桃青の心の裡は、なかなかの物すさまじい苦悩と模索とに充ちていたと想像される。「殊の外気詰り」なひとで、嵐雪も俳諧のほか・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味で動揺・新たな方向への模索が生じた時期に、必ず改めて究明・再評・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫