・・・レーニン的党派性に鍛えられることによって、同志小林は、複雑、矛盾するこの世の諸現象を根源に横たわる、社会的階級的相関関係において把握することを体得し、即ち真理をより正確にとらえ得るに到っていたのである。 同志貴司山治は『改造』四月号の「・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・ 確乎たる指導、一切の偏向及び歪曲との断乎たる闘争、文学における真に正しいプロレタリア的方針の確立、これらが国際局の前に横たわる重大な課題である。 第一に外国支部の前に控えている課題は、生産から労働者を文学に吸引することであり之と並・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・地響を立てて横たわる古い、苔や寄生木のついた幹に払われて、共に倒れる小さい生木の裂ける悲鳴。 小枝の折れるパチパチいう音に混って、「南へよけろよーッ、南ー」 ドドーンとまたどこかで、かなり大きい一本が横たわる。 パカッカッ…・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ この事実こそ、最も明白にナロードニキの学生達の善意はあるが、抽象的な世界観の内容とゴーリキイの現実的な社会の認識との間に横たわる歴史性の本質的な相異を語るものである。然し、この価値の高い現象も当時にあっては、ゴーリキイに或る不安な驚き・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・その矛盾の歴史的なにがにがしさを、若い世代としての情熱ではじきかえさず、そこの間に横たわる矛盾こそがいかに大きく深い力で今日の娘たちを引おろしているものであるかも知らず、何かリアリストのようにいい切っている姿は、何と憫然で腹立たしいだろう。・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・この車の軌道を横たわるに会えば、電車の車掌といえども、車をとめて、忍んでその過ぐるを待たざることを得ない。 そしてこの車は一の空車に過ぎぬのである。 わたくしはこの空車の行くにあうごとに、目迎えてこれを送ることを禁じ得ない。わたくし・・・ 森鴎外 「空車」
・・・二人一しょに散歩をすると、男ぶりはどちらも悪くても、とにかく背の高い塩谷が立派なので、「塩谷一丈雲腰に横たわる、安井三尺草頭を埋む」などと冷やかされた。 江戸に出ていても、質素な仲平は極端な簡易生活をしていた。帰り新参で、昌平黌の塾に入・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・どの流派を追い、どの筆法を利用するにしても、要するに洋画家の目ざすところは、目前に横たわる現実の一片を捕えて、それを如実に描き出すことである。彼らにとって美は目前に在るものの内にひそんでいる。机の上の果物、花瓶、草花。あるいは庭に咲く日向葵・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・もし私が担ぎ込まれた病院で医者に絶望されながら床の上に横たわるとしたら、そうして夜明けまで持つかどうか危ないとしたら、私はどうするだろう。逢いたい人々にも恐らく逢えまい。整理しておきたい事も今さらいかんともしようがない。自分の生涯や仕事につ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・ 人生問題はすべての歴史の根底に横たわる。星を数えつつ井戸に落ちた人、骨と皮とになるまで黙然として考えた人は史上の立て物ではない。しかしながら過去数千年の人類の経路は一日としてこの問題から離るるを許さなかった。西行はために健脚となり信長・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫