・・・に始まって倫敦をズット西へ横断している新しい地下電気だ。どこで乗ってもどこで下りても二文すなわち日本の十銭だからこう云う名がついている。乗った。ゴーと云って向うの穴を反対の方角に列車が出るのを相図に、こっちの列車もゴーと云って負けない気で進・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・チフリスへはコーカサス山脈を横断するグルジンスカヤ山道を自動車で十時間余ドライブして行く筈であった。コーカサスの雄大な美を知りたいと思えば、このグルジンスカヤ山道をおいてはない。そう云われている絶景である。ウラジ・カウカアズが、その起点とな・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・恋愛的情景に非常に圧縮された濃い深い雰囲気を出した点、メイエルホリド一流の好みで、ロイド眼鏡をかけたフレスタコフが、ゆきつ戻りつ、ステッキをふって市長宅へ出かける場面で、大胆至極な赤銅ばりの柵で舞台を横断させ、動く人間を一本の強い線の左右に・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・――いつ出るんだろう、あの爺さん――第二図は、湯槽の横断面で、驚くながれ爺さんは湯槽で風呂をつかって居るのではなかった、彼はそこで生活して居るのだ。勿論着物のまま爺さんは膝をたてて湯槽によりかかり本をよんで居る。彼のちぢめたどた靴の先には、・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
・・・ フリードランドの平原では、朝日が昇ると、ナポレオンの主力の大軍がニエメン河を横断してロシアの陣営へ向っていった。しかし、今や彼らは連戦連勝の栄光の頂点で、尽く彼らの過去に殺戮した血色のために気が狂っていた。 ナポレオンは河岸の丘の・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫