・・・おらあ汝の運は汝に任せてえ、おらが横車を云おう気は持たねえ、正直に隠さず云ってくれ。 女はグイとまた仰飲って、冷然として云い放った。「何が何でもわたしゃアいいよ、首になっても列ぼうわね。 面は火のように、眼は耀くように見えながら・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・但馬守だって何だって、彦左の横車には、かないますまい。」「けれども、」弱い十兵衛は、いたずらに懐疑的だ。「なるべくなら、そんな横車なんか押さないほうがいいんじゃないかな。僕にはまだ十兵衛の資格はないし、下手に大久保なんかが飛び出したら、・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・っそう難儀なことはその根本的な無知を自覚しないでほんとうはわからないことをわかったつもりになったりあるいは第二次以下の末梢的因子を第一次の因子と誤認したりして途方もない間違った施設方策をもって世の中に横車を押そうとするもののあることである。・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・権力をにぎっており、議会において多数であるという力を横車に、自分のところでこれまで一枚も出していなかった政党新聞の用紙を日刊十万部分もわり取って、野党の機関紙をひどいのは十分の一ばかりに切り下げようとするやりかたは正当でない。検事総長が「友・・・ 宮本百合子 「平和をわれらに」
・・・ 笑い出すとだらしなくはめを脱した事。横車を押し意だけ高に何かを罵って居た時、才覚のある者が、ふみばさみに文をはさんで、これを大臣に奉ると云って擬勢を示したら、「大臣ふみもえとらず、手わななきてやがて笑ひて、今日は術なし、右の大・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
出典:青空文庫