○ これも正しく人間生活史の中に起った実際の出来事の一つである。 ○ また夢に襲われてクララは暗い中に眼をさました。妹のアグネスは同じ床の中で、姉の胸によりそってすやすやと静・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・物的環境が正しく調節されることは、生命が正しく生長することである。唯物史観は単なる精神外の一現象ではなくして、実に生命観そのものである。種子を取りまいてその生長にかかわるすべての物質は、種子にとって異邦物ではなく、種子そのものの一部分となっ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ 世に茫然という色があるなら、四辺の光景は正しくそれ。月もなく、日もなく、樹もなく、草もなく、路もない、雲に似て踏みごたえがあって、雪に似て冷からず、朧夜かと思えば暗く、東雲かと見れば陰々たる中に、煙草盆、枕、火鉢、炬燵櫓の形など左右、・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・…… 指の細く白いのに、紅いと、緑なのと、指環二つ嵌めた手を下に、三指ついた状に、裾模様の松の葉に、玉の折鶴のように組合せて、褄を深く正しく居ても、溢るる裳の紅を、しめて、踏みくぐみの雪の羽二重足袋。幽に震えるような身を緊めた爪先の塗駒・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・兄夫婦や満蔵はほとんど、活きた器械のごとく、秩序正しく動いている。省作の目には、太陽の光が寸一寸と歩を進めて動く意味と、ほとんど同じようにその調子に合わせて、家の人たちが働いてるように見える。省作はもうただただ愉快である。 東京の物の本・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ しかし、受け持ちの先生のいったことは、かならずしも正しくなかったことは、ずっと後になってから、吉雄が有名なすぐれた学者になったのでわかりました。 小川未明 「ある日の先生と子供」
・・・そして、どちらのいうことが、正しいとも、正しくないとも答えませんでした。 その明くる日、太陽は、よほど深く考え事があるとみえて、終日、顔を見せませんでした。 小川未明 「煙突と柳」
・・・そんな人間の存在を助けているということは、社会生活という上から見て、正しく不道徳な行為であらねばならぬ」斯ういうのが彼等の一致した意見なのであった。「一体貧乏ということは、決して不道徳なものではない。好い意味の貧乏というものは、却て他人・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・お前のいう通り若くて上品で、それから何だッけな、うむその沈着いていて気性が高くて、まだ入用ならば学問が深くて腕が確かで男前がよくて品行が正しくて、ああ疲労れた、どこに一箇所落ちというものがない若者だ。 たんとそんなことをおっしゃいまし。・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ある特別の場合に正しく行為せんためにはわれらは何を行ない何を禁止すべきか。かかる問いに対しては完全な答えは不可能である。何故ならこれに答えるためには、その場合の事情の十全な認識、行為のあらゆる結果の十全なる予測が必要であるが、かかる知見は神・・・ 倉田百三 「学生と教養」
出典:青空文庫