・・・でも愛山氏などは、殆んど正反対に立った論敵ではあったが、一面北村君とは仲の宜い友達でもあった。それから喧嘩をして却って対手に知られた形で、北村君は国民の友や、国民新聞なにかへも寄稿するようになった。その中で、『他界に対する観念』は、北村君の・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ 旅行上手の者に到っては、事情がまるで正反対である。 ここで、具体的に井伏さんの旅行のしかたを紹介しよう。 第一に、井伏さんは釣道具を肩にかついで旅行なされる。井伏さんが本心から釣が好きということについては、私にもいささか疑念が・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・その頃日本では、南方へ南方へと、皆の関心がもっぱらその方面にばかり集中せられていたのであるが、私はその正反対の本州の北端に向って旅立った。自分の身も、いつどのような事になるかわからぬ。いまのうちに自分の生れて育った津軽を、よく見て置こうと思・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ これと正反対の極端にある科学者もある。その種類の人には歴史という事は全く無意味である。古い研究などはどうでもよい。最新の知識すなわち真である。これに達した径路は問う所ではないのである。実際科学上の知識を絶対的または究極的なものと信じる・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・すなわち向かって右のほうにいたAは光が左から右へ動くように思ったというのに左のほうにいたBはそれとは正反対に右から左へ動いたようだと主張するのである。この二人の主張がそれぞれ正しいとすると、これは問題の現象が半分は客観的すなわち物理的光学的・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・物理学者にはいつでも最初が質的で次に量的が来るのに、ここではそれが正反対なのである。しかしあとでよく考えてみると、物理でもやはりプランクトンと同様なものを、水産学におけると同様に取り扱っていることは少しも珍しくない。つい近くまでわれわれは鉄・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・小野が東京へでてハッキリとアナーキストとして活動しはじめ、故郷へその影響を及ぼしはじめたのと、その正反対の道なのだ。三吉は梯子段にうつむいたまま、ふちなし眼鏡も、室からさしている電灯の灯に横顔をうかせたまま、そっぽむきにたっていた。――・・・ 徳永直 「白い道」
・・・しかもそれは正反対の方向といってよい。矛盾的自己同一的なる我々の自己の自覚の立場から、後者は外の方向へ、前者は内の方向へということができる。同じく形而上学的といっても、フィヒテ哲学とデカルト哲学とは相反する両方向に立つのである。矛盾的自己同・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・この二つの神は正反対の矛盾として対蹠して居る。しかも新約は旧約の続篇で、且つ両者の精神を本質的に共通して居る。ニイチェのショーペンハウエルに於ける場合も、要するにまたこれと同じである。ニイチェは如何にその師匠に叛逆し、昔の先生を「老いたる詐・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・私とは正反対に、非常な快活な奴で、鼻唄で世の中を渡ってるような女だった。無論浅薄じゃあるけれども、其処にまた活々とした処がある。私の様に死んじゃ居ない。で、其女の大口開いてアハハハハと笑うような態度が、実に不思議な一種の引力を起させる。あな・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫