・・・日記や随筆と変らぬ新人の作品が、その素直さを買われて小説として文壇に通用し、豊田正子、野沢富美子、直井潔、「新日本文学者」が推薦する「町工場」の作者などが出現すると、その素人の素直さにノスタルジアを感じて、狼狽してこれを賞讃しなければならぬ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・と、どうやら無事に言い納めた時に、三十歳を少し越えたくらいの美しい人があらわれ、しとやかに一礼して、「はじめてお目にかかります。正子の姉でございます。」「は、幾久しゅうお願い申上げます。」と私は少しまごついてお辞儀した。つづいて、ま・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ 豊田正子の「綴方教室」が異常な好評で迎えられたのもこの時期である。随筆への傾きはこの時期更に一歩を進めて、少女の作文にさえ何かの新味と現実の姿とをみようとする状態であった。川端康成が、女子供の文章の真実を、その素朴な偽なさの故に評価し・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 豊田正子の「綴方教室」小川正子の「小島の春」などが、この波頭であった。これらの本は、文学では生産文学、素材主義の文学が現れて生活の実感のとぼしさで人々の心に飢渇を感じさせはじめた時、玄人のこしらえものよりも、素人の真実な生活からの記録・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・ 一九三九年ごろの軍需インフレーション時代、出版インフレといわれた豊田正子『綴方教室』小川正子『小島の春』などとともに、野沢富美子という一人の少女が『煉瓦女工』という短篇集をもって注目をひいた。「煉瓦女工」は、荒々しく切なく、そして・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・そういう時代に、たとえば極く新しい人として、作家にならない時代の豊田正子さんとか、野沢富美子さんとかいう人が出ました。野沢さんも、豊田さんも才能のある人で、生活にしっかりくっついたいい素質を持っている人です。それをどういう風にジャーナリズム・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・そして豊田正子の綴方が世に出されたときも、周囲のひとは彼女が文学的なものに全く遠いということを特に強調して述べていたことを自然のつながりで思い浮べた。 日本の文学はこの四五年来、社会事情の変転とともに大きい転換時代にめぐり会い、文芸思潮・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
出典:青空文庫