・・・飲み出すと執拗だ。殆ど前後不覚に酔っぱらってしまった。 カンバンになって「カスタニエン」を追い出されてからも、どこをどう飲み歩いたか、難波までフラフラと来た時は、もう夜中の三時頃だった。頭も朦朧としていたが、寄って来る円タクも朦朧だった・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・眼に見えるようなは其而已でなく、其時ふッと気が付くと、森の殆ど出端の蓊鬱と生茂った山査子の中に、居るわい、敵が。大きな食肥た奴であった。俺は痩の虚弱ではあるけれど、やッと云って躍蒐る、バチッという音がして、何か斯う大きなもの、トサ其時は思わ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・と近藤は殆ど命令するように言った。「宜しい! それから僕は卒業するや一年ばかり東京でマゴマゴしていたが、断然と北海道へ行ったその時の心持といったら無いね、何だかこう馬鹿野郎! というような心持がしてねエ、上野の停車場で汽車へ乗って、ピュ・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・今日が日まで三年ばかりで大事の月日が、殆ど煙のように過って了いました。僕の心は壊れて了ったのですからねエ」と大友は眼を瞬たいた。お正ははんけちを眼にあてて頭を垂れて了った。「まア可いサ、酒でも飲みましょう」と大友は酌を促がして、黙って飲・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
田舎から東京をみるという題をつけたが本当をいうと、田舎に長く住んでいると東京のことは殆ど分らない。日本から外国へ行くと却て日本の姿がよく分るとは多くの海外へ行った人々の繰返すところであるし、私もちょっとばかり日本からはなれ・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・今でも其の時分の面影を残して居る私塾が市中を捜したらば少しは有るでしょうが、殆ど先ず今日は絶えたといっても宜敷いのです。私塾と云えばいずれ規模の大きいのは無いのですが、それらの塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・而して此一致・合同は、常に自己保存が種保存の基礎たり準備たることに依て行われる、豊富なる生殖は常に健全なる生活から出るのである、斯くて新陳代謝する、種保存の本能大に活動せるの時は、自己保存の本能は既に殆ど其職分を遂げて居る筈である、果実を結・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・そんな風にして始まった二人の結び付きから、不幸な別離に終ったまでのことが、三年前の悲しいも、八年前の嬉しいも、殆ど一緒に成って、車の上にある大塚さんの胸に浮んだ。 もとより、大塚さんがおせんと一緒に成った時は、初めて結婚する人では無・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・ 次に舜典に徴するに、舜は下流社會の人、孝によりて遂に帝位を讓られしが、その事蹟たるや、制度、政治、巡狩、祭祀等、苟も人君が治民に關して成すべき一切の事業は殆どすべて舜の事蹟に附加せられ、且人道中最大なる孝道は、舜の特性として傳へらるゝ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・彼は此為には沢山の時間を無駄につぶし、殆ど毎日、昼から釣をしている姿の見えぬ事はありません。彼がスバーに一番ちょくちょく会ったのも斯うやって釣をする時でした。何をするにでも、プラタプは仲間のあるのが好きでした。釣をしている時には、口を利かな・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫