・・・もっとも胎生動物の母胎の伸縮も同様な例としてあげられるかもしれないが、しかしこの蛇のように僅少な時間にこんなに自由に伸びるのは全く珍しいと言わなければなるまい。これにはきっと特別な細胞や繊維の特異性があるに相違ないが、ちょっとした動物学の書・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・現代において社会主義の社会と文学とは、新しい美感の母胎である。 作者は一九三〇年の十一月に日本へ帰って来た。じき、当時のナップに加盟していた日本プロレタリア作家同盟に参加した。そして精力的にソヴェトの社会生活の見学記、文化・文学活動の報・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・独善的に民族の優越性や民族文化を誇張したファシズム治下の国々が、ほかならぬその母胎である女性の性を、売淫にさらしていることはわたしどもになにを語る事実であるだろうか。 ところが、昨今の日本の文化は、自国の社会生活の破壊の色どりである売笑・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・その潮にともに流れてこそ、作家は、新しい文学の真の母胎である大衆生活のうちに自身の進発の足がかりをも確保し得たであったろう。 しかし、現実はこのようではない。作家の多くは、自己と文学との歴史的展開のモメントをとらえきれなかった。その原因・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・同時にその市場を運営していたアムステルダムの市民は、ルーベンス、レンブラントの芸術を生む母胎ともなった。ハンザ同盟に加っていたヨーロッパのいくつかの自由都市は、それぞれのわが市から出発して商業の上で世界を一まわりしていたばかりでなく、当時の・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・文学のうまれる母胎としての社会の階層・階級を、勤労するより多数の人々の群のうちに見いだし、社会の発展の現実の推進力をそれらの勤労階級が掌握しているとおり、未来の文化発展も、そこに大きい決定的な可能として潜在していることを理解したのであった。・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・そして、自分たちの経験を発展の母胎と見、それにいちおうは執しようという心持は、民主主義文学のいわれている今日の日本で独特の混乱の源泉となりました。日本文学の伝統の中に近代の意味での自我は確立していなかったのだから、ブルジョア民主主義の段階に・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・的世界をもひろげて行くのだけれど、今日ではまだその目で見耳にきかされることを十分理解し、洞察し、判断し、事の真実にまでわが心情にふれて行って芸術的な作品を生み出してゆくところまで婦人作家の生活と芸術の母胎は強靭になっていない。題材的にひろが・・・ 宮本百合子 「拡がる視野」
・・・読者としての大衆の文化水準の低さのみがこの場合目につけられ、作家そのものの実質を低下させている社会的母胎の質の問題が見落された時、一部の作家自身が云うように「抽象的な情熱」が喚び迎えられることになるのである。 私は、今日万葉、王朝の精神・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・文学は、自身の母胎である社会のそのような若さの特徴からもたらされるよろこびと悲しみの全部を、その肉体のあらゆる屈折で語りつつ、明日へ前進しなければならないのである。 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
出典:青空文庫