・・・ 三 蝦蟇法師がお通に意あるが如き素振を認めたる連中は、これをお通が召使の老媼に語りて、且つ戯れ、且つ戒めぬ。 毎夕納涼台に集る輩は、喋々しく蝦蟇法師の噂をなして、何者にまれ乞食僧の昼間の住家を探り出だして、その・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・海気をふくんで何となし肌当たりのよい風がおのずと気分をのびのびさせる。毎夕の対酌に河村君は予に語った。妻に子がなければ妻のやつは心細がって気もみをする、親類のやつらは妾でも置いてみたらという。子のないということはずいぶん厄介ですぜ、しかし私・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・芹川さんの兄さんとは、女学校に通っていたときには、毎朝毎夕挨拶を交して、兄さんは、いつでも、お店で、小僧さんたちと一緒に、くるくると小まめに立ち働いていました。女学校を出てからも、兄さんは、一週間にいちどくらいは、何かと注文のお菓子をとどけ・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
・・・ それにしても毎日毎夕類型的な新聞記事ばかりを読み、不正確な報道ばかりに眼をさらしていたら、人間の頭脳は次第に変質退化して行くのではないかと気づかわれる。昔のギリシア人やローマ人はしあわせなことに新聞というものをもたなくて、そのかわりに・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・その頃唖々子は毎夕新聞社の校正係長になっていたのである。「この間の小説はもう出来上ったか。」と唖々子はわたしに導かれて、電車通の鰻屋宮川へ行く途すがらわたしに問いかけた。「いや、あの小説は駄目だ。文学なんぞやる今の新しい女はとても僕・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・僕の記憶する所では、新聞紙には、二六、国民、毎夕、中央、東京日日の諸紙毒筆を振うこと最甚しく、雑誌にはササメキと呼ぶもの、及び文芸春秋と称するもの抔があった。是等都下の新聞紙及び雑誌類の僕に対する攻撃の文によって、僕はいい年をしながらカッフ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ 毎朝、毎夕、あの恐しい省線にワーッと押しこまれ、ワーッと押し出されて、お勤めに通う若い女性たちは、昔の躾を守っていたら、電車一つにものれません。生活の現実が、昔の形式的な躾の型を、押し流してしまいました。 けれども、私たちの心には・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・通行人は一人ならず彼を天才であると察して恭々しく挨拶をした。」毎夕六時になると、有名なトルコ玉のステッキと伊達者ぶりの服装でバルザックは愛人である貴婦人のサロンに現れ、オペラの棧敷に現れ、時には美術骨董店へ立ち現れた。「斯くの如く一日は極め・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・その娘の煙ったいというのは本当に煙のことで、田舎では毎朝毎夕炉で粗朶をいぶし、煮たきをする、その煙が辛い。ガスのある東京で世帯をもちたいというのである。 巡査にしろ、小学校教員にしろ、その妻は畑仕事が主な仕事ではなくて生計が営める。婦人・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫