・・・「俺は手前、毎日得意廻りに出ていねえんだもの、見やしねえけれど大抵当りはつかあ」「そうかね」「そうとも。きっと何だろう、店先へ買物にでも来たような風をして、親方の気のつかねえように、何かボソボソお上さんと内密話をしちゃ、帰って行・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・その主人の親戚で亀やんという老人が、青物の行商に毎日北田辺から出てくるが、もうだいぶ身体が弱っているので、車の先引きをしてくれる若い者を探してくれと頼まれていたらしい。帰って秋山さん――例の男は秋山といいました――に相談すると、賛成してくれ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ ルーマニヤを通る時は、百何十度という恐ろしい熱天に毎日十里宛行軍したッけが、其時でさえ斯うはなかった。ああ誰ぞ来て呉れれば好いがな。 しめた! この男のこの大きな吸筒、これには屹度水がある! けれど、取りに行かなきゃならぬ。さぞ痛む事・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・そしてまたその葉が馬鹿に大きくて、毎日見て毎日大きくなっている。その癖もう八月に入ってるというのに、一向花が咲かなかった。 いよ/\敷金切れ、滞納四ヵ月という処から家主との関係が断絶して、三百がやって来るようになってからも、もう一月程も・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 此の時分から彼は今まで食べていた毎日の食物に飽きたと言い、バターもいや、さしみや肉類もほうれん草も厭、何か変った物を考えて呉れと言います。走りの野菜をやりましたら大変喜びましたが、これも二日とは続けられません。それで今度はお前から注文・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ その奇異な初対面の夜から、私達は毎日訪ね合ったり、一緒に散歩したりするようになりました。月が欠けるに随って、K君もあんな夜更けに海へ出ることはなくなりました。 ある朝、私は日の出を見に海辺に立っていたことがありました。そのときK君・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・僕等は生れてこの天地の間に来る、無我無心の小児の時から種々な事に出遇う、毎日太陽を見る、毎夜星を仰ぐ、ここに於てかこの不可思議なる天地も一向不可思議でなくなる。生も死も、宇宙万般の現象も尋常茶番となって了う。哲学で候うの科学で御座るのと言っ・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 子供達は、そこから、琺瑯引きの洗面器を抱えて毎日やって来た。ある時は、老人や婆さんがやって来た。ある時は娘がやって来た。 吉永は、一中隊から来ていた。松木と武石とは二中隊の兵卒だった。 三人は、パン屑のまじった白砂糖を捨てずに・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・それは毎日輪講の書が変って一週間目にまた旧の書を輪講するというようになって居るのです。即ち月曜日には孟子、火曜日には詩経、水曜日には大学、木曜日には文章規範、金曜日には何、土曜日には何というようになって居るので、易いものは学力の低い人達の為・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・汽車・電車は毎日のように衝突したり、人をひいたりしている。米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下している。警察・裁判所・監獄は、多忙をきわめている。今日の社会においては、もし疾病なく、傷害なく、真に自然の死をとげうる人があるとすれば、それは、・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
出典:青空文庫