・・・第三にはフィルムの毎秒のコマ数によっておのずから規定された速度の制約を無視して、快速な運動を近距離から写した場面が多い。そういうところはただ目まぐるしいだけで印象が空疎になるばかりでなくむしろ不快の刺激しか与えない。これはフィルムの上におけ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・について、もう一つ忘れてならないことは、フィルムの記録が連続的でなくて断片の接合から成り立っていることである。毎秒にたとえば十六コマずつを撮影するとして、そのひとコマがまたシャッターの回転速度とそのセクトルの大きさによって規定されたある一定・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・ 物理学の初歩の教科書を見ると、地球重力による物体落下の加速度は毎秒毎秒九・八メートルであると書いてある。しかしデパートの屋上から落とした一枚の鼻紙は決してこの方則には従わないのである。重力加速度に関する物理の方則は空気の抵抗や風の横圧・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・そうしてその筆の穂を五倍子箱の中の五倍子の粉の中に突っ込んで粉を充分に含ませておいて口中に運ぶ、そうして筆の穂先を右へ左へ毎秒一往復ぐらいの週期で動かしながらまんべんなく歯列の前面を摩擦するのである。何分間ぐらいつづけていたかはっきりした記・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・上昇速度は目測の結果からあとで推算したところでは毎秒五六十メートル、すなわち台風で観測される最大速度と同程度のものであったらしい。 煙の柱の外側の膚はコーリフラワー形に細かい凹凸を刻まれていて内部の擾乱渦動の劇烈なことを示している。そう・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・前にも述べたように彼らの小屋にとっては弱震も烈震も効果においてたいした相違はないであろうし、毎秒二十メートルの風も毎秒六十メートルの風もやはり結果においてほぼ同等であったろうと想像される。そうして、野生の鳥獣が地震や風雨に堪えるようにこれら・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・旋風内の最高風速はよくはわからないが毎秒七八十メートルを越える事も珍しくはないらしい。弾丸の速度に比べれば問題にならぬが、おもちゃの弓で射た矢よりは速いかもしれない。数年前アメリカの気象学雑誌に出ていた一例によると、麦わらの茎が・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・それで、地上三メートルの高さから水平に発射されたとして十メートルの距離において地上一メートルの点で障子に衝突したとすれば、空気の抵抗を除外しても、少なくも毎秒十メートル以上の初速をもって発射されたとしなければ勘定が合わない。あの一見枯死して・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・ 光の伝播は実用上ほとんど瞬時的であるが、音の速度は常温では毎秒三百四十メートル程度である。それで三百四十メートルのかなたで花火が開けば、その音は光の傘が開いてから一秒後に聞こえる。たとえば薄暮の水楼の欄干に男女が相対して話している。向こう・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・精神的にも、女の自主的な部分が拡大されることは、私たちの生活の毎秒ごとに起っている悲劇のいくつかを防ぐであろう。悲劇を惨劇に終らせぬ力を増すだろう。そのためにもと、あなたは、女に職業としてではなくても仕事があった方がよいとお考えになる。・・・ 宮本百合子 「現実の道」
出典:青空文庫