・・・ 男の頭の中にはさっき見せられた短刀の事も毒薬を注射する針のするどさの事もおびやかさせる様に思い出された。心臓に重いものがかぶさった様な気がして来た。死にかかった人がする様な目つきをして手をのぞき込んだ、きずはついて居ない、ただ青い手の・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・ ――だって、お前、ソヴェト同盟じゃ、あんなにプロレタリアートの階級意識を眠らす毒薬として宗教撲滅運動やってるじゃないか、見たよ、ソヴェトで出してる面白い絵入りの反宗教雑誌を。 ――確にそうさ。ソヴェト同盟のその運動は革命当時から着・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
・・・ 林町の方で三十七八の女が白粉瓶に毒薬を入れて持って居るのを捕ったと云う話、深川の石井が現に、在郷軍人の帽子をかぶって指揮して居るのを見たと云い、恐しいものだ。 本田道ちゃんの話 丁度昼で三越に食事に行こうとして玄関に出て来・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・そのために毒薬さえすらりとのまされた。青酸加里を毒物と知っている人民も、政府予算の八五%は働く人民の懐からまき上げるという、間接殺人は頂いて、更に二百万人の馘首をしようとしている保守政府を頂いてもよさそうな輿論を示すものさえある。中毒する大・・・ 宮本百合子 「目をあいて見る」
・・・しかし、ここの花園では愛恋は毒薬であった。もしも恋慕が花に交って花開くなら、やがてそのものは花のように散るであろう。何ぜなら、この丘の空と花との明るさは、巷の恋に代った安らかさを病人に与えるために他ならない。もしも彼らの間に恋の花が咲いたな・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫