・・・ それ故に王法を安泰にし、民衆を救うの道は仏法を正しくするをもって根本としなければならぬ。 しからばいかなるが仏の正法であるか。 日蓮によれば、それは法華経をもって正宗としなければならぬ。 なぜなれば、法華経は了義経であって・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・欧洲大戦当時、フランスとイギリスのブルジョアジーは、ベルギーと、その他の国民の解放のために戦争を行っていると主張して民衆を欺いた。ほんとは、自分の掠奪した植民地を保持するために戦争をやっていたのだ。独逸の帝国主義者は、又、イギリスやフランス・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・それから、ほとんど涙声になって、「バスチーユのね、牢獄を攻撃してね、民衆がね、あちらからもこちらからも立ち上って、それ以来、フランスの、春こうろうの花の宴が永遠に、永遠にだよ、永遠に失われる事になったのだけどね、でも、破壊しなければいけ・・・ 太宰治 「おさん」
・・・しかし、民衆だって、ずるくて汚くて慾が深くて、裏切って、ろくでも無いのが多いのだから、謂わばアイコとでも申すべきで、むしろ役人のほうは、その大半、幼にして学を好み、長ずるに及んで立志出郷、もっぱら六法全書の糞暗記に努め、質素倹約、友人にケチ・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・さすがに民衆も、はずかしくて歌えなかったようである。将軍たちはまた、鉄桶という言葉をやたらに新聞人たちに使用させた。しかし、それは棺桶を聯想させた。転進という、何かころころ転げ廻るボールを聯想させるような言葉も発明された。敵わが腹中にはいる・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・いつか私は、この事を或る先輩に言ったところが、その先輩は、それは民衆へのあこがれというものだ、と教えてくれた。してみると、あこがれというものは、いつの日か必ず達せられるものらしい。私は今では、完全に民衆の中の一人である。カアキ色のズボンをは・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・これに対してモスコフスキーが、一体それは腕を仕込むのが主意か、それとも民衆一般との社会的連帯の感じを持たせるためかと聞くと、「両方とも私には重要に思われる。その上に私のこの希望を正当と思わせるもう一つの見地がある。手工は勿論高等教育を受・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・の岩波本を活動帰りの電車の中ででも少しばかりのぞいて見れば、このごろ舶来のモンタージュ術と本質的に全く同型で、しかもこれに比べて比較にならぬほど立派なものが何百年前の日本の民衆の間に平気で行なわれていたことを発見して驚くであろう。ウンター・・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・幕末勇士などに扮した男優の顔はいかなる蛮族の顔よりもグロテスクで陰惨なものであるが、それが特別に民衆に受けると見えてそれらの網目版が至るところの店先で自分をにらみつけ、脅かし圧迫した。 長い間縁の切れていた活動映画が再び自分の日常生活の・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・それからまた鹿狩りの場に現われた貴族的なスポーツ風景は国粋主義の紳士淑女を喜ばすものであり、シャトーにおける生活の空虚と痴愚を露骨に風刺する多数の画面は卑近な民衆イデオロギーに迎合するものであろう。その中で比較的成効しているのは、サヴィニャ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
出典:青空文庫