・・・ 人格を見抜く力もなく、頭もなく、ちやほやされるままに気位なくあちこちと浮れ廻る娘は、只一人の真友も持ち得ないと同時に、女性に対して無責任、或は破廉恥な挙動をした者は、忽ち、友達仲間から除外されます。 相当な面目を保った異性間には、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ H町の生活は、自分の気位、趣味、余裕ある心持等を養うに、偉大な効力を持って居た。 人間として持つべきだけの威厳、快楽、美に敏感な感情を授けられたことは、生涯、生活を、蕪雑なものにし得ない為に、自分を益して居る。 けれども、彼の・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・そういう面での敏感さはいつしか母の好きな気位というものをも卑屈にさせた。 一九三二年に私が結婚した時、母は宮本を見て深くよろこんだ。そしてこんどはお前も幸福になれそうだね、と云った。しかし、去年の暮以来、母は若い時から自慢の直感で娘の夫・・・ 宮本百合子 「母」
・・・男の友人と、気位のない交際をしているのを知って、ロザリーが注意を加えても何もなりません。だらしのないのをやめさせようとしても、ドラの云うことはこうです。「そんなことは子供のうちに仕込まれるべきことですわ。おかあさんはきっちりしていらっし・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・百姓バルザの精力と野心とに溢れた孫息子が、少年時代から憧れ通してしかも接近し得ないでいた貴族趣味、教養、貴族的気位、カトリック教の神秘の霧で、ベルニィ夫人は自身の逞しい素朴な愛人をくるみこんだのであった。 ベルニィ夫人の生活は、その時既・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 対等で、真面目に話し合わず、母は気位を以て亢奮し、Aは涙を出し、父が、誘われたようにして居られる光景は、充分私の心を痛めるものだ。 Aが「斯う云う風に思いかえして下されば、僕もどんなに嬉しいか分りません」と云ったに対し、母・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫