・・・それが、日照とか夜間放熱とか気温とか風当たりとかそういう単なる気象的条件の差異によってこれらの遅速を説明しようと思っても、なかなか簡単には説明されそうもないような結果であった。また根の周囲の土壌の質や水分供給の差異によるとも思われなかった。・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・開花当時の気温を調べてみても必ずしも一定していない。無論その間ぎわの数日の気温の高低はかなりの影響をもつには相違ないが、それにしてもこの現象を決定する因子はその瞬間の気象要素のみではなくて、遠くさかのぼれば長い冬の間から初春へかけて、一見活・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・しかしてこれにはその室内の気温、気圧、湿度が直ちに関係する。また微弱な気流でもその落下の方向速度を変える事は明白である。しかるにこれらの温度や気流等はまた室内のみならず室外全宇宙の現象の影響を受けぬ訳には行かぬ。なおこのような影響を及ぼすも・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・地球ができてからいままでの気温は、たいてい空気中の炭酸ガスの量できまっていたと言われるくらいだからね。」「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変えるくらいの炭酸ガスを噴くでしょうか。」「それは僕も計算した。あれがいま爆発・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ この頃は、寒いといっても気温がゆるみました。私はどうかして夜更かしをせず早起きをして、仕事をして行きたいと思います。長いものを書くためには徹夜などもってのほかですからね。このためには大分がん張らないとどうしても夜更かしになるから困りま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 今日は四月上旬の穏かな気温と眠い艷のない曇天とがある。机に向っていながら、何のはずみか、私は胸が苦しくなる程、その田舎の懐しさに襲われた。斯うやっていても、耕地の土の匂い裸足で踏む雑草の感触がまざまざと皮膚に甦って来る。――子供の時分・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・雨につれて、気温も下り、四辺の空気も大分すがすがしく軽やかになったらしく感じる。――一人でその雨に聴き入っているのが惜しく、下に眠っているYにも教えたいと思った位。 大体、私共は旅行に出てから十日余、天気の点では幸運であった。京都にいた・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・けれども、気温が全くちがい、暑さの全く違うインドで、病室を開け放したらどうだろう。全インドの医者が、インドで窓を開けたら病人の命は忽ち危くされると大抗議をしたのは当然である。彼女は組織者、企画者、行為する天才であった。が、近代科学者ではなか・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・私共は生きる以上、生物として先ず気温との闘争からはじまる、諸種の社会生活における闘争を無自覚ながらやっている。それが、上にのべた場合には自覚され、目的のきめられた闘争として考えられ、行動に組織されるようにならざるを得ないのです。 ところ・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・もちろん、日光のほかに気温も関係しているであろう。右のような時刻には、外気が冷たくなり、蕾の内部の気温との相対的な関係が、昼間と逆になるはずである。何かそういう類の微妙な空気の状態が、蓮の開花と連関しているのかもしれない。その点から考えると・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫