・・・ 一九〇九年の夏帝都セントピータースバーグを見物した時には大学の理科の先生たちはたいてい休暇でどこかへ旅行していて留守であった。気象台の測器検定室の一隅には聖母像を祭ってあって、それにあかあかとお燈明が上がっていた。イサーク寺では僧正の・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・町の四辻に写真屋があり、その気象台のような硝子の家屋に、秋の日の青空が侘しげに映っていた。時計屋の店先には、眼鏡をかけた主人が坐って、黙って熱心に仕事をしていた。 街は人出で賑やかに雑鬧していた。そのくせ少しも物音がなく、閑雅にひっそり・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
四十年来の暑さだ、と、中央気象台では発表した。四十年に一度の暑さの中を政界の巨星連が右往左往した。 スペインや、イタリーでは、ナポレオンの方を向いて、政界が退進した。 赤石山の、てっぺんへ、寝台へ寝たまま持ち上げら・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・どうしてって東京には日本の中央気象台があるし上海には支那の中華大気象台があるだろう。どっちだって偉い人がたくさん居るんだ。本当は気象台の上をかけるときは僕たちはみんな急ぎたがるんだ。どうしてって風力計がくるくるくるくる廻っていて僕たちのレコ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
出典:青空文庫