・・・ここに水上泰生の別荘あり。 東京からスキーヤーが来るとき、土地の農民は山案内をしたり、千本で一円の箸を内職したりします。竹カゴもあむ。 十月十四日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 長野県上林温泉より〕 十月十四日の夜。あした一寸・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・今まで、こんな様子を見たことのなかった彼は、まるで幻を見るような心持で、フラフラと水上の方へと歩いて行きました。 行けば行くほど広くなる谿は、いつの間にか、白楊や樫や、糸杉などがまるで、満潮時の大海のように繁って、その高浪の飛沫のように・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 若し、社会的条件がそれを可能ならしめるならば、例えば犬養健氏、水上瀧太郎氏等の文学が、今日在るのとは全然変ったものとして生れたであろう。単に作家的才能云々の理由ではないのである。 私が、一部の読者を退屈させながら、この文章の前半に・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・日露戦争のとき、旅順口の攻撃は主として英国の海軍によって行われたものだ、と信じている英国人が少くなかったことは、小説家水上瀧太郎の「倫敦の宿」という作品にかかれている。日本の人民は自分たちの軍事的権力の威力だけで勝利したと信じこまされていた・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
古橋広之進君をはじめ五名の水泳代表選手が、来る十一日のパンアメリカ号で渡米する。全米水上選手権大会へ、これらの日本の若い精鋭が出場するようになったことは全日本の明るい関心をあつめている。合宿先である福田屋旅館の板前さんまで・・・ 宮本百合子 「ボン・ボヤージ!」
・・・灯をつけた低空飛行の水上機が一機、丘すれすれに爆音をたてて舞って来た。「おい、栖方の光線、あいつなら落せるかい。」と高田は手枕のまま栖方の方を見て云った。一瞬どよめいていた座はしんと静まった。と、高田ははッと我に返って起きあがった。そし・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫