・・・二間ばかりもあるかと思われるひろさで流れている水は澄んでいて流れの底に、流れにそってなびいている青い水草が生えているのや、白い瀬戸ものの破片が沈んでいるのや、瀬戸ひき鍋の底のぬけたのが半分泥に埋まっているのなどが岸のところから見えていた。大・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 池の水草の白い花が夕もやの下りた池のうす紫の中にほっかり夢の様に見える様子や、泳ぎながらその花で体中を巻く時の美くしさや快さなんかも思った。 何がなしに仙二には夏の来るのがいつもより倍も倍も待遠かった。 毎日毎日若い仙二は夏の・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・岩や石の間には、夢のような苔や蘭の花が咲き満ちて、糸のように流れて行く水からは、すがすがしい香りが漂い、ゆらゆらと揺れる水草の根元を、針のように光る小魚が、嬉しそうに踊って行きます。 海にある通りの珊瑚が、碧い水底に立派な宮殿を作り、そ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・日光が金粉をまいたように水面に踊って、なだらかな浪が、彼方の岸から此方の岸へと、サヤサヤ、サヤとよせて来るごとに、浅瀬の水草が、しずかにそよいで居る。 その池に落ち込む小川も、又一年中、一番好い勢でながれて居る。はるかな西のかん木のしげ・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・ けれ共、その中央の深さは、その土地のものでさえ、馬鹿にはされないほどで、長い年月の間に茂り合った水草は小舟の櫂にすがりついて、行こうとする船足を引き止める。 粘土の浅黒い泥の上に水色の襞が静かにひたひたと打ちかかる。葦に混じって咲・・・ 宮本百合子 「農村」
いつでも黒い被衣を着て切下げて居た祖母と京都に行って居たのは丁度六月末池の水草に白い豆の様な花のポツリポツリと見え始める頃から紫陽花のあせる頃までで私にはかなり長い旅であった。祖母の弟の家にやっかいになって居てすっかり京都・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・Monet なんぞは同じ池に同じ水草の生えている処を何遍も書いていて、時候が違い、天気が違い、一日のうちでも朝夕の日当りの違うのを、人に味わせるから、一枚見るよりは較べて見る方が面白い。それは巧妙な芸術家の事である。同じモデルの写生を下手に・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫