・・・というに至って極まるのである。スピノザ哲学は、デカルトの実体から出立して、その主語的論理の極に達したものということができる。此に至って、全然我々の自己の独自性は失われて、我々は実体の様相となった。我々は神の様相としてコーギトーするのである。・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・御察し申しまするに、あなたはわたくしのいたした事を無責任極まる所為だと思召して、ひどくご立腹になっていらっしゃいますのでしょう。自分で顧みて見ましても、わたくしのいたした事は余り気の利いた所為だとは申されません。全く子供らしい振舞だったと申・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・元来墓地には制限を置かねばならぬというのが我輩の持論だが、今日のように人口が繁殖して来る際に墓地の如き不生産的地所が殖えるというのは厄介極まる話だ。何も墓地を広くしないからッて死者に対する礼を欠くという訳はない。華族が一人死ぬると長屋の十軒・・・ 正岡子規 「墓」
・・・明后日までにすっかり決まるのだ。夕方父が帰って炉ばたに居たからぼくは思い切って父にもう一度学校の事情を云った。 すると父が母もまだ伊勢詣りさえしないのだし祖母だって伊勢詣り一ぺんとここらの観音巡り一ぺんしただけこの十何年死ぬまでに善光寺・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・黒い不潔極まる水面から黒い四角な箱みたいな工場が浮島のように見える。枯木が一本どうしたわけかその工場の横に突立っている。往来近いところは長い乱れた葦にかくされているが、向う側の小店の人間が捨てる必要のある総ての物――錆腐った鍋、古下駄から魚・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ そもそも、インフレーションの原因は厖大極まる軍事費のおかげである。当時の代議士たちは、議会の白い建物の中で、一人のこらず夢のように巨額な軍事予算に賛成の手をあげて来たのであった。 国民経済は全くうちこわされ、各家庭の経済は、ひどい・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ こういう今日というものの在りようの中で、作者と読者とが互に困難極まる一つ軸の廻転の上に置かれていることを理解しないものはないだろうと思う。作者は、表現したく欲するものを何とか表現しようとしてあのように、このように、そして不完全に表現し・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・そんならその度合はどうして極まるか。職工の生活の需要であろうか。生活の需要なんぞというものも、高まろうとしている傾はいつまでも止まることはあるまい。そんなら工場の利益の幾分を職工に分けて遣れば好いか。その幾分というものも、極まった度合にはな・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・危険な事はない。あの男はとうとう追躡妄想で自殺してしまった。Maeterlinck は Monna Vanna のような奸通劇を書く。危険極まる。 イタリアの文学で、D'Annunzio は小説にも脚本にも、色彩の濃い筆を使って、性欲生・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・しかし平凡極まる記事なので、読んで失望しないものはなかった。「小石川区小日向台町何丁目何番地に新築落成して横浜市より引き移りし株式業深淵某氏宅にては、二月十七日の晩に新宅祝として、友人を招き、宴会を催し、深更に及びし為め、一二名宿泊する・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫