・・・私は決心いたしました。この饑餓陣営の中に於きましては最早私共の運命は定まってあります。戦争の為にでなく飢餓の為に全滅するばかりであります。かの巨大なるバナナン軍団のただ十六人の生存者われわれもまた死ぬばかりであります。この際私が将軍の勲章と・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・多くの人々が、この問題の本質上、今日ではもう個人的解決の時期を全くすぎていて、これは人民的規模において、男女共通に、共通の方法に参加して、各種の管理委員会をこしらえて、自主的な圧力で改善してゆくことに決心したら、どんなに早く、解決の緒につく・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・牝牛を買いたく思う百姓は去って見たり来て見たり、容易に決心する事ができないで、絶えず欺されはしないかと惑いつ懼れつ、売り手の目ばかりながめてはそいつのごまかしと家畜のいかさまとを見いだそうとしている。 農婦はその足もとに大きな手籠を置き・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・ちょうど主人の決心を母と妻とが言わずに知っていたように、家来も女中も知っていたので、勝手からも厩の方からも笑い声なぞは聞こえない。 母は母の部屋に、よめはよめの部屋に、弟は弟の部屋に、じっと物を思っている。主人は居間で鼾をかいて寝ている・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・いてはそう違わないと思うが、人それぞれの性質によって困難の対象は違うものとしなければならぬなら、私にとっての困難はやはり身辺小説だとは思えないので、こつこつやっているうちに幾らかはなろうと思っている。決心したことはまずやって見なければ、この・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・己は足を留めて、少し立ち入ったようで悪いかとも思ったが、決心して聞いて見た。「あれはなんだね。」「判決文です。」エルリングはこう云って、目を大きくって、落ち着いた気色で己を見た。「誰の。」「わたくしのです。」「どう云う文・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そうしてどんな事が起ころうとも勇ましく堪えようと決心します。 しかし私はすでに与えられたものに対してはのんきである事ができません。運命が自分をいかに変化しようとも自分が他人になる事は決してありますまい。私の個性は性格は私の宿命です。どう・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫