・・・などをみても、それを書いた動機がやはり一つの気力で、ナポレオンの没落後、パリの社交界人が、ナポレオンとさえ言わず、ムッシュウボナパルトと言って、極く卑俗な自分達のぬくもった利害の見地からばかり批評しているのをみて、ナポレオンの歴史的な価値を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 特権階級の政治的無能と没落のしるしを聖書のことばで瞞着するということは世界のどの歴史の蔵相もあえてしなかったことです。日本の蔵相は人民を愚弄しています。 この場合、婦人代議士は何をしているでしょう。彼女達の多くは何といって話をして・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 一、以上に述べたような経済事情の悪化は、小規模な出版業者の没落と、没落しまいとするもがきから一層粗悪なエロ・グロ出版を行わせる結果になった。日本出版協会は、日本民主化のために有益な出版を鼓舞しようとするたてまえから、さる六月エロ・・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・このことは、たとえば『文芸』の選に当って一つの作品がポオの有名な「アッシャア家の没落」を題材にしていることを明かに指したり、他の或る作品が百分の一チェホフの「六号室」と百分の五の「決闘」をもっていることをあげているのが宇野氏ただ一人であると・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・の主人公は時代が推移して明治が来るとともに没落せざるを得なかった宿場本陣の主、精神的には本居宣長の思想の破産によって悲劇的終焉を遂げざるを得なかった男である。作者藤村氏が、抒情的な粘着力をもって縷々切々と、この主人公とそれをめぐる一団の人々・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・「戦後のハッタリ精神とヤミの没落は文学の面でも象徴的であった」火野葦平は文学に対する同人雑誌の任務、出版関係が「昔にかえった」ことを慶祝している。 戦後の出版界の空さわぎは、出版社というものが、つまりはブローカー的存在であって、自分が何・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・支配階級には、現在の歴史の中で矛盾の多い非生産的な階級でありながら、支配階級としての権力を保っていかれるという、その矛盾をはっきりと見てその矛盾がそれらの人々にもたらす生活変化、階級の没落に対して、正直に勇気ある人間らしい発展性で自分の身を・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・又、黒衣黒帽のストイックは、其処に恐ろしい現代人の没落と地獄的な誘惑とを見たと思うまいものでもない。 彼には、現をぬかして眺めている私の様子がこの上もなく危険に思えるだろう。何故なら、彼那に見ている以上欲しいのに違いない。が、あの身なり・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・栗毛の馬の平原は狂人を載せてうねりながら、黒い地平線を造って、潮のように没落へと溢れていった。 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・そこで勘次の父は秋三の家が没落して他人手に渡ろうとした時、復讐と恩酬とを籠めたあらゆる意味において、「今だ!」と思った。そして、妻が反対したのに拘らず、彼は妻の実家を立て直して翌年死んだ。以後勘次の家は何事につけても秋三の家の上に立った。で・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫