・・・知っていながら哲学や芸術に没頭しているとすれば、彼らは現代から取り残された、過去に属する無能者である。彼らがもし『自分たちは何事もできないから哲学や芸術をいじくっている。どうかそっと邪魔にならない所に自分たちをいさしてくれ』というのなら、そ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・私はそれほどまでに真に純粋に芸術に没頭しうる芸術家を尊もう。私はある主義者たちのように、そういう人たちを頭から愚物視することはできない。かかる人はいかなる時代にも人間全体によっていたわられねばならぬ特種の人である。しかし第二の種類に属する芸・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・芸術に対しては特に没頭したものがなかったので、鑑識力も発達してはいなかったが、見当違いの批評などをする時でも、父その人でなければ言われないような表現や言葉使いをした。父は私たちが芸術に携わることは極端に嫌って、ことに軽文学は極端に排斥した。・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・時代に没頭していては時代を批評することができない。私の文学に求むるところは批評である。 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・そういう心持は、自分自身のその現在に全く没頭しているのであるから、世の中にこれ位性急な(同時に、石鹸玉心持はない。……そういう心持が、善いとも、又、悪いとも言うのではない。が、そういう心持になった際に、当然気が付かなければならないところの、・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・(この咄については『明星』掲載当時或る知人から誤解であると手柬 若い人たちの中には鴎外が晩年考証に没頭して純文芸に遠ざかったのを惜んで、鴎外を追懐するにつけて再び文芸に帰る期が失われたのを遺憾とするものがあった。 が、私の思うま・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ 大学の教授たちが自分の専門に没頭して、只だそれを伝えると云うような事以外に、小学校の先生には更に教うる生徒に対して深い愛情がなければならぬ。 然し乍ら私は現在の小学校の先生方が皆かくの如き人格者のみであるとは思わない。丁度医者が昔・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・ 私は、児童芸術に没頭していますが、真に、児童の世界を擁護し、児童のためにつくす施設に乏しいのを感ぜずにいられません。浅薄なイデオロギーによって、児童を在来の文化に囚えんとするもの、もしくは、政治的目的意識によって階級観念を植付けんとす・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・おまけに、庄之助が寿子相手の稽古に没頭して、自分の仕事を顧みなくなってからは、家の暮しが一層困って来ているのを思うと、礼子ももはや寿子の良い母親になっているわけにはいかず、いつか継母じみて来るのだった。 というそんな微妙な事情を、寿子は・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・もっと、むきになって、この俗世間を愛惜し、愁殺し、一生そこに没頭してみて下さい。神は、そのような人間の姿を一ばん愛しています。ただいま召使いの者たちに、舟の仕度をさせて居ります。あれに乗って、故郷へまっすぐにお帰りなさい。さようなら。」と言・・・ 太宰治 「竹青」
出典:青空文庫