・・・文学団体が機関誌さえも順調に刊行できず、団体解散の理由を、直接治安維持法の暴力によるものと明言し得ないで、指導者と指導理論の批判に藉口するために汲々としている雰囲気の中で、小林多喜二全集刊行がどうして実現しよう。客観的にも主観的にも全集刊行・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・ 一九三三年は前年に治安維持法が改悪されて、そのために進歩的な文化全面に、激しい動揺が生じていた。内心の恐怖を、文化・文学理論への批判という形にすりかえて、卑劣な内部崩壊が企てられていた。小林多喜二は、前年春から、不自由な生活を余儀なく・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・ところが僅か三号出したばかりのとき、発行元であった日本プロレタリア文化連盟が、つい先頃まで私たちを苦しめた治安維持法という悪法によって弾圧され、『働く婦人』の刊行は、非常に困難に陥りました。折角出来上った雑誌をそっくりそのまま警察の手で押え・・・ 宮本百合子 「再刊の言葉」
・・・もっと都合のわるかったことは、日本に治安維持法という法律がつい先頃まであったことだった。治安維持法が非人間な悪法であるということを理解しなかった人たちにとっては、自分の学校の卒業生が女のくせに、そういう法律にとがめられて入獄するというような・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・しかし、その後治安維持法が改悪され、日本の侵略戦争が着手され、拡大されてゆく社会波瀾の裡で、プロレタリア文学とその理論とがめぐりあった悲劇と、この後進性とはきわめて重大に関係しあった。いまわたしたちは、はっきりとそれを見るのである。 小・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・言論・出版・集会の自由、良心と身体の自由。治安維持法が廃止され、憲兵・特高制度が廃止されたということは、直接治安維持法の対象とされていた民主的な思想の人々を解放したばかりではなかった。生きのこった日本の全人民が、はじめて幾重もの口かせ、手か・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・ 日本の治安維持法の非道さは、治安維持法そのものについて、それがあるということさえ公然と語れば、犯罪行為とした。東條内閣の言論、思想の圧迫は、言論の自由がなく、思想は抑圧されているという現実そのものを抹殺したほど、極端であった。そのよう・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ むかし社会主義の思想と運動が治安維持法によって極端に弾圧されていた時代、日本共産党が非合法な政党としてひどい目にあわされていた時代、運動に入って困難な闘いを続けている若い男女の同志が世間態は人なみの家庭生活をしなければならないために、・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・実際こっちでは、治安妨害とか、風俗壊乱とか云う名目の下に、そんな人を羅致した実例を見たことがない。しかしこう云うことを洗立をして見た所が、確とした結果を得ることはむずかしくはあるまいか。それは人間の力の及ばぬ事ではあるまいか。若しそうだと、・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・そうして初めは、彼らの武力による治安維持の努力が実際に目に見える功績であった。しかし後にはただ特権階級として、伝統の特権によって民衆の上に立っていたのである。しかし民衆運動が勃興して後には、由緒の代わりに実力が物をいうようになった。単なる家・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫