・・・が、間もあらせず、今度は印半纏を被た若いものに船を操らせて、亭主らしい年配な法体したのが漕ぎつけて、「これはこれは太夫様。」亭主も逸早くそれを知っていて、恭しく挨拶をした。浴衣の上だけれど、紋の着いた薄羽織を引かけていたが、さて、「改めて御・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・だが、この寺内の淡島堂は神仏混交の遺物であって、仏具を飾って僧侶がお勤めをしていたから、椿岳もまた頭を剃円めて法体し、本然と名を改めて暫らくは淡島様のお守をしていた。 この淡島堂のお堂守時代が椿岳本来の面目を思う存分に発揮したので、奇名・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・屈託無げにはしているが福々爺の方は法体同様の大きな艶々した前兀頭の中で何か考えているのだろう、にこやかには繕っているが、其眼はジッと女の下げている頭を射透すように見守っている。女は自分の申出たことに何の手答のある言葉も無いのに堪えかねたか、・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 何ぼうはあ貧乏してても、もとあ歴として禰宜様の家柄でからに、人に後指一本差さっちゃことのねえとっさん捕めえてよくもよくも…… よくもよくもそげえな法体もねえことを吐かしてけつかる! 何ぼうはあ」 真青な顔をして、あの黒子を・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫