・・・街路は整頓され、洋風の建築は起こされ、郊外は四方に発展して、いたるところの山裾と海辺に、瀟洒な別荘や住宅が新緑の木立のなかに見出された。私はまた洗練された、しかしどれもこれも単純な味しかもたない料理をしばしば食べた。豪華な昔しの面影を止めた・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・之を要するに現代の新女優、給仕女、女店員、洋風女髪結のたぐいは、いずれも同じ趣味と同じ性行とを有する同種の新婦人である。 今銀座のカッフェーに憩い、仔細に給仕女の服装化粧を看るに、其の趣味の徹頭徹尾現代的なることは、恰当世流行の婦人雑誌・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ 大通の街路の方には、硝子窓のある洋風の家が多かった。理髪店の軒先には、紅白の丸い棒が突き出してあり、ペンキの看板に Barbershop と書いてあった。旅館もあるし、洗濯屋もあった。町の四辻に写真屋があり、その気象台のような硝子の家・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 女学校の方で使っていた古い校舎のつくりかたも、明治初年の洋風でなかなか風趣があった。退屈きわまる裁縫室の外には、ひろい廊下と木造ながらどっしりしたその廊下の柱列が並んでそういう柱列は、表側の上級生の教室のそとにもあった。日がよく当って・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・ 明治末期から大正にかけて、日本のブルジョア・インテリゲンツィアの文学の一つを代表した作家夏目漱石は、文学的生涯の終りに、自分のリアリズムにゆきづまって、東洋風な現実からの逃避の欲望と、近代的な現実探究の態度との間に宙ぶらりんとなって、・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・ 湿気、火事の要心のため、洋風にし家具を全部背いくるように落付いた色調。足音のしない床。〔一九二六年九月〕 宮本百合子 「書斎の条件」
・・・広い弓形の窓をとり、勿論洋風で、周囲にがっしりした木組みの書棚。壁は暗緑色の壁紙、天井壁の上部は純白、入口は小さくし、一歩其中に踏入ると、静かな光線や、落付いた家具の感じが、すっかり心を鎮め、大きく広い机の上の原稿紙が、自ら心を牽きつけ招く・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・の中で語られているいい生活の規準は、テニス・コートもある洋風の家と丈夫で従順な妻と丈夫なほどよい数の子供達に基礎をおいているのだが、文学の本来は、そのような一個の男の欲求の肯定から出発した設計の描写ではなくて、現代の常識が何故そのような図取・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・出来上りの形、方法こそ異っても、おしゃれをする女性の心持は東西同じで手間をかけたら両方結局同じものでしょう、但し個性的であるだけ洋風が優っています。 2、自分は人手をからず好な形に又簡単に結べる束髪のみにしています。〔一九二三年四月・・・ 宮本百合子 「日本髷か束髪か」
・・・もとは客間に使われていた洋風板じきの室に食卓を入れて、食事にもお客用にも使って二人は暮しているのであった。 格別、彼のために新調されたのでもない座布団の上にあぐらをくんで、うまがって、はったい粉をたべている重吉を、ひろ子は、飽かず眺める・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫