・・・も僕一個人にとって、痛快、といってもいいくらいの奇妙なよろこびを感じさせられた事は、市場に物資がたくさん出ていて、また飲み食いする屋台、小料理屋が、街々にひしめき、あふれるという感じで立ち並び、怪しい活況を呈していた事でした。もとより、僕に・・・ 太宰治 「女類」
・・・ しかし、奇妙なことに、そういう一面の活況にもかかわらず、真の日本文化の高揚力というものが、若々しいよろこびに満ちた潮鳴りとして、私たちの実感の上に湧きたち、押しよせてこないようなところがある。これも偽りない事実ではないだろうか。 ・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・そういう話がある折であったから通りすがりに見るこの米屋の大活況は何となし感じに来るものがあるのであった。そこは朝夕郊外からの勤人が夥しく通る往来でもあったから、そういう男の人たちはどんな感情でこの米屋の店の有様を見て通るのだろうか。そんなこ・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・ 外見上の文学の繁昌が、その本質に対する疑問を喚びさましている一方、この一般的な活況の中には、やはり本ものの文学が生育されて行く或る可能というものも見えがくれしているのが実際である。文学とは何であろうかという、文学への新しい考え直しの慾・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・の無責任な活況が起った。インフレ出版、インフレ作家というよび名さえ起った。しかし文学の実質は低下の一線をたどった。戦争遂行目的のために作家と文学の動員されることはますますはげしくなって「文芸家協会」は「文学報国会」となり、作家のある人々は、・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 外部の条件として、インフレ出版と呼ばれるような出版の活況があって、一面ではその乱暴な出版洪水のために、文学は荒らされているのも現実である。婦人作家の文学業績も無責任に商品化されてゆく危険があるのだが、めいめいの心がけによっては、こうい・・・ 宮本百合子 「拡がる視野」
・・・更に、一方には中国、満州と前線を活躍する作家たちの気分と経済のインフレーション活況があって、ひろ子の立場は、まるで孤独な河岸の石垣が、自分を洗って流れ走ってゆく膨んだ水の圧力に堪えているような状態だった。 経済上苦しいばかりか、心が息づ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・文芸作品が映画化されてゆくことは一見相互的な活況のようであるが、その実微妙な本質の部分で、却って今日の文化の消極の面が働いているかもしれないのである。文芸映画をつくる人々と観る人々とは、その重大な点をどのように考え又感じ、押してゆこうとして・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
出典:青空文庫