・・・われわれが験潮器を浜に据えて、鉛管を海中へ引っぱっていたので、何か水雷でもしかけているという噂をされたそうである。 この浜の便所はおそらく世界一の広々とした明るい便所で、二人並んで、ゆるゆる談じながら用を達すことが出来るしかけである。そ・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・次に太陽や燈火の光が海中に入り込む程度は漁業上重要な問題であるが、これを要するに光学上の問題に帰着する。上層と下層における魚類の色を自然淘汰によって説明した動物学者があるが、その基礎とするところは海中における光の吸収の研究である。また海岸の・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・床には海中文殊の軸が懸っている。焚き残した線香が暗い方でいまだに臭っている。広い寺だから森閑として、人気がない。黒い天井に差す丸行灯の丸い影が、仰向く途端に生きてるように見えた。 立膝をしたまま、左の手で座蒲団を捲って、右を差し込んで見・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・航海中の無聊は誰も知って居るが、自分のは無聊に心配が加わって居るので、ただ早く日本へ着けば善いと思うばかりで、永き夜の暮し方に困った。時々上の桟敷で茶をこぼす、それが板の隙間から漏りて下に寝て居る人の頭の辺へポチポチと落ちて来る、下の人が大・・・ 正岡子規 「病」
・・・潮流の工合で、南洋からそういう植物をのせたまま浮島が漂って来て、大仕掛の山葵卸のようなそれ等の巖のギザギザに引っかかったまま固着したのか、または海中噴火でもし、溶岩が太平洋の波に打たれ、叩かれ、化学的分解作用で変化して巖はそんな奇妙なものと・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・それというのも「海中深く没してしまった自分の身の、動きのとれぬ落付きでもあったろう」としんみり述懐しているのである。父が破産するに及んで月給取りになった久内は、こうもつぶやいている。「むかし自分の頭を占めて離れなかった雑多な思想を思い浮べて・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・見ていると、大空から急降下爆撃で垂直に下って来た新飛行機は、栖方の眼前で、空中分解をし、ずぼりと海中へ突き込んだそのまま、尽く死んでしまった。 また別の話で、ラバァウルへ行く飛行中、操縦席からサンドウィッチを差し出してくれたときのこと、・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫