・・・彼は空中に舞い上った揚句、太陽の光に翼を焼かれ、とうとう海中に溺死していた。マドリッドへ、リオへ、サマルカンドへ、――僕はこう云う僕の夢を嘲笑わない訣には行かなかった。同時に又復讐の神に追われたオレステスを考えない訣にも行かなかった。 ・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ するとある曇った午後、△△は火薬庫に火のはいったために俄かに恐しい爆声を挙げ、半ば海中に横になってしまった。××は勿論びっくりした。(もっとも大勢の職工たちはこの××の震海戦もしない△△の急に片輪になってしまう、――それは実際××には・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・そこの海中の岩かげに、ふわふわと浮かんでいる海草に、おじいさんをしてしまったのです。一日ふわふわと海の上に浮かんでいます。日の光が暖かに照らしています。波影が、きらきらと光っています。鳥もめったに飛んでこなければ、その小さな島には、人も、獣・・・ 小川未明 「ものぐさじじいの来世」
・・・次いで干潮時の高い浪がK君を海中へ仆します。もしそのとき形骸に感覚が蘇えってくれば、魂はそれと共に元へ帰ったのであります。哀れなるかな、イカルスが幾人も来ては落っこちる。 K君はそれを墜落と呼んでいました。もし今度も墜落であ・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・当たらざるため自ら三たび船内を捜索したるも、船体漸次に沈没、海水甲板に達せるをもって、やむを得ずボートにおり、本船を離れ敵弾の下を退却せる際、一巨弾中佐の頭部をうち、中佐の体は一片の肉塊を艇内に残して海中に墜落したるものなり――「どうで・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・たちまち加速度を以て、胸焼きこげるほどに海辺を恋い、足袋はだしで家を飛び出しざぶざぶ海中へ突入する。脚にぶつぶつ鱗が生じて、からだをくねらせ二掻き、三掻き、かなしや、その身は奇しき人魚。そんな順序では無かろうかと思う。女は天性、その肉体の脂・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・……魚の視感を研究した人の話によると海中で威嚇された魚はわずかに数尺逃げのびると、もうすっかり安心して悠々と泳いでいるという事である。……今度の大戦で荒らされた地方の森に巣をくっていた鴉は、砲撃がやんで数日たたないうちにもう帰って来て、枝も・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ 島が生まれるという記事なども、地球物理学的に解釈すると、海底火山の噴出、あるいは地震による海底の隆起によって海中に島が現われあるいは暗礁が露出する現象、あるいはまた河口における三角州の出現などを連想させるものがある。 なかんずく速・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・熔岩が海中へ流れ込んだ跡も通って行った。シャボテンやみかんのような木も見られた。粗末な泥土塗りの田舎家もイタリアと思えばおもしろかった。古風な木造の歯車のついた粉ひき車がそのような家の庭にころがっているのも珍しかった。青い海のかなたにソレン・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・すなわち海中に突き出る義か。安和 「アパ」入口。または海上より見た河口。阿波国名もあるいは同じか。五百蔵 「イウォロ」山。斗賀野 「ツク」上方に拡がる「ヌ平原丘。四万十川 「シ」甚だ。「マムタ」美しき。布師田 北海道に「・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
出典:青空文庫