先月、日比谷映画劇場で、国際観光局が海外宣伝映画試写会をもよおした。「富士山」と「日本の女性」という二つの作品で、其映画のはじまる前に、映画製作に直接関係した課の長にあたる人の挨拶があった。これまでの日本の映画音楽がよくな・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・そして、「明治以前ノ著訳出版ニ係ルノ書名及ビ海外新旧出版ノ書名ヲ輯ス」とある。 震災後の帝国図書館は知らないが、それ以前でも、上野の図書館は決して愉快なところでもなければ、図書館として充分利用出来る便利な処でもなかった。 索引や蔵書・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・ 此の毎朝起きて着物を着るとすぐ何より先に、郵便局に出かけて行く心持は、恐らく、誰でも、海外に生活した事のある人は味わずにはすまされない心の経験であろう。 嬉しい。仮令一枚の葉書でも、故国から来たものとなると、心持が異う。毎朝、小さ・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・ ブラジルでコーヒー畑の間を歩いて居る裸足の日本海外移民の魂には消えぬ望郷がある。日本にしかないソーユが構成した生理的望郷がある。ワシントン市在留駐米日本大使の知らぬこれは強烈な感覚的思慕だ。北緯四十*度から**度の間に弦に張られた島 ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・それがはっきり一般の人々の眼と心に映るまでに、海外との自由なゆききはまだ出来ない条件にある。そのために、インテリゲンツィアの気分の中には、民主主義の課題さえ、そとからあてがわれたように思って、何となし、その手にのるものか、という風な眼つきさ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・父は、母を海外へつれてゆくについて、万一の場合、子供らから離れていては母がさぞ悲しいであろうと、長男夫婦、末娘までを一行に加えた。 私は二年前よりモスクに居り、五月マルセーユまで行って、家の一行と合した。母は、一生に一度は見て置きた・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・種々の研究材料は、切支丹に関するもの、海外貿易に関するもの、その他、皆散在している。舶来された芸術品など、極めて立派なものが箇人の蔵にしまわれている由。それ故、長逗留をし、縁故を辿って気永く研究しようとする篤志家は兎も角、私のように貧しい予・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・だが、名人にとって将棋は娯楽の範囲にとどまって考えられてはいないだろうし、文学は、国の光として英訳して海外に誇るべきものの一つとして考えられ扱われている。源氏物語がその一例だが、将棋の友とそれとの間に、常識は別種のものを感じ理解している。・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・作者としての大石さんが、作品の世界にとらえ難いと歎いているものはあながち海外でのみみられる日本人の人間としての成長の過程のあとづけばかりではなくて、そのように日本の心をつくりかえてゆくそこの土地の力の云うに云えない日夜の作用そのもののうつし・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・ 家康に『貞観政要』を講義した藤原惺窩は、いかなる特殊の内にも普遍の理が存することを力説した学者であった。海外との交通の手助けなどもしている。そう眼界の狭い学者であったとは思えない。彼の著として伝わっている『仮名性理』あるいは『千代もと・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫