・・・などと愚にもつかない駄洒落を弄ぶ、と、こごとが出そうであるが、本篇に必要で、酢にするように切離せないのだから、しばらく御海容を願いたい。「……干鯛かいらいし……ええと、蛸とくあのく鱈、三百三もんに買うて、鰤菩薩に参らする――ですか。とぼ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・御海容ねがいます。 この、つまらない山の中の温泉場へ来てから、もう三日になりますが、一つとして得るところがありませんでした。奇妙な、ばからしい思いで、ただ、うろうろしています。なんにもならなかった。仕事は、一枚も出来ません。宿賃が心配で・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ キヌ子にさんざんムダ使いされて、黙って海容の美徳を示しているなんて、とてもそんな事の出来る性格ではなかった。何か、それ相当のお返しをいただかなければ、どうしたって、気がすまない。 あんちきしょう! 生意気だ。ものにしてやれ。 ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・無言の海容。すべて、これらのお慈悲、ひねこびた倒錯の愛情、無意識の女々しき復讐心より発するものと知れ。つね日頃より貴族の出を誇れる傲縦のマダム、かの女の情夫のあられもない、一路物慾、マダムの丸い顔、望見するより早く、お金くれえ、お金くれえ、・・・ 太宰治 「創生記」
・・・蘭童あるが故に、一女優のひとすじの愛あらわれ、菊池寛の海容の人情讃えられ、または蘭童かかりつけの××の閨房に御夫人感謝のつつましき白い花咲いた。 ――お葉書、拝見いたしましたが、ぼくの原稿、どうしても、――だめですか? ――ええ・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
出典:青空文庫