・・・それからこれらの混合です。」 大博士はわらいました。「無色のけむりはたいへんいい。形について言いたまえ。」「無風で煙が相当あれば、たての棒にもなりますが、さきはだんだんひろがります。雲の非常に低い日は、棒は雲までのぼって行って、・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・併し、常磐津、長唄、管絃楽と、能がかりな科白とオペラの合唱のようなものとの混合は、面白い思いつきと云う以上、何処まで発育し得るものであろう。自分には分らない。とにかく邯鄲は、材料も適したものであったと云えよう。「犬」は、しんみりと演じ、・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ ここにも、これまでの日本の封建性と近代資本社会の混合した恐ろしい害悪が現われている。 こういう文化機構であったからこそ、戦争中の日本人民は、あのように侵略思想で統一され、偽瞞されつくした。金を儲ける文化企業者は、人民の生血そのもの・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・が、農業と工業との生産労働へ日夜接触して見ると、彼等は自身のリアリズムに多分の機械的マルクシズム、生産に対する知識階級的エキゾチシズムが混合していることを自覚して来たのであった。 ロシア・プロレタリア作家連盟が右翼「同伴者」の反革命的要・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・その過渡期であるこんにち、第二次大戦後の新しい不安と苦悩、勇気と怯懦とが、混合して噴出している。おそらくは、「二十五時」などの中にも。そして、われわれ日本の読者の悲劇は、ヨーロッパ現代文学の中でも、歴史様相に対して最も猜疑心の深い動機にたつ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・日本が、本当の自由主義時代を持たず、しかも急調に今日に至っていることに思い及べば、今日の或る種の女の中にあるこのようなポーズがどういう性質の歴史的混合物であるかは自ら明瞭ではないだろうか。 パラマウントが日本へ来て撮影して行った日本・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・とりのこされた綿の実が、白く見える耕地からゆるやかな起伏をもって延びて居る、色彩の多い遠景、近くに見ると、色絨壇のような樹々の色も、遠くなるにつれて、混合した、一種の雑色となって、澄んだ空の下に横わって居る。 赤や茶や黄や、緑や、其等の・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・親としての作家と、作家としての作家と、区別はないようであるけれども、駄作を承認する襟度に一層の自信を持つようになったのは、親としての作家が混合して来た結果である場合によることが多いと思われる。人間が行動するとき、子のあるものと子のないものと・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・ある者は大和絵と文人画と御舟と龍子との混合酒を造ってその味の新しきを誇り、ある者はインドとシナの混合酒に大和絵の香味をつけてその珍奇を目立たせようとする。昔の和歌に巧妙な古歌の引用をもって賞讃を博したものがあるが、この種の絵もそういう技巧上・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・そうでない世界人は抽象である。混合人は腐敗である。――しかも私は真に日本的なものを予感するのみで、それが何であるかを知らない。私は我々の眼前にそれが現われていると信じたくない。なぜなら私は悪しき西洋文明と貧弱な日本文明との混血児が最も栄えつ・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫