・・・娘たちが逞しく、しかし渋みがあって、少し憂鬱な青年を好めばそうした青年が本当にあらわれてくる。かようにしてクローデット・コルベールに似た娘や、クラーク・ゲーブル型の青年がちまたに見られるようになるのだ。 これは恐ろしいことだ。青年たちが・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ この人の絵には落ち着いた渋みの奥にエロティックに近い甘さがある。ことしのは少し錆が勝っている。近ごろだいぶこの人のまねをする人があるが、外形であの味のまねはできない。できてもつまらない。 石井柏亭。 「牡丹」の絵は前景がちょっと日本画・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・ 鮮やかな形のうちに清い渋みをたたえたライラック色の花弁は、水のように日を燦かすフレームの中で、無邪気な、やや憂いを帯びた蝶が、音を立てず群れ遊ぶように見えた。 飴緑色の半透明な茎を、根を埋めた水苔のもくもくした際から見あげると、宛・・・ 宮本百合子 「小景」
出典:青空文庫