・・・また、すきな物を召上れと云われ、実に嬉しいに違いないのに、「おらあ子持の時分から、腹の減るということを知らなかった女だごんだ」と云うように。後では、時節がよく成ると、皆の方から、田舎に行って世話をやいて来て下さいと云った。去年も五月に、私が・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ 今のこのひどい中で二人の口が減ることだけさえ一方ならないことだのに、その上いくらかは入っても来ようというものだ。 彼女等だってまんざらの子供ではなし…… そう思っているところへ、娘達の方からどうぞ遣って下さいと切り出したことは・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・にあけながら、「頂戴物が減るのを気づかって来やしたのし。と笑って居た。 女中は祖母にその事を見た様に話して居る。 祖母に、たのまれた用事があるので、じき近処の牛乳屋へ行く。此村に只一軒の店で昔から住んで居るので実力の・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・で、いつまで立っても減ることはないと云った。勝手道具もそうである。土間に七釐が二つ置いてある。春の来た時に別当が、「壊れているのは旦那ので、満足なのは己のだ」と云った。その内に壊れたのがまるで使えなくなったので、春は別当と同じ七釐で物を烹る・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫