・・・ それほどにも国々の国民性がこんな演芸の末にまで現れるというのは面白いよりはむしろ恐ろしいことであろう。 連句をお休みにしてその代りにレビューを見物しながら、この二つの芸術の比較といったようなことを考えてみた。両方に共通な点も色々あ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・それらの演芸の声だけでなくて演芸者自身がその声にくっついて忽然として自分の家庭に侵入して来るように感じる。そういう人達が突然自分の家の茶の間へ飛込んで来て、遠慮もなく大声を揚げて怒鳴っているような気がしてはなはだ不自然な感じがするのである。・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・ わたくしが栄子と心易くなったのは、昭和十三年の夏、作曲家S氏と共に、この劇場の演芸にたずさわった時からであった。初日の幕のあこうとする刻限、楽屋に行くと、その日は三社権現御祭礼の当日だったそうで、栄子はわたくしが二階の踊子部屋へ入るの・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・わたくしは其の時までオペラの如き西洋の演芸が極東の都会に於て演奏せられようとは夢にだも思っていなかった。当時我国興行界の事情と、殊にその財力とは西洋オペラの一座を遠く極東の地に招聘し得べきものでないと臆断していたので、突然此事を聞き知った時・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・道具の汚いのと、役者の絶句と、演芸中に舞台裏で大道具の釘を打つ音が台辞を邪魔することなぞは、他では余り見受けない景物である。寒い芝居小屋だ。それに土間で小児の泣く声と、立ち歩くのを叱る出方の尖り声とが耳障りになる。中幕の河庄では、芝三松の小・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・戦後の演芸が下がかってくるのも是非がない。 浅草の劇場では以上述べたようなジャズ舞踊の外に必ず一幕物が演ぜられている。 戦争後に流行した茶番じみた滑稽物は漸くすたって、闇の女の葛藤、脱走した犯罪者の末路、女を中心とする無頼漢の闘争と・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・会社は若い娘の夢をもたせるために、工場の建物を白く塗って、きれいな花壇をつくったり演芸会をしたり、工場の内に女学校の模型のようなものをおいて、お茶や、お花などをやらせている。その若い娘たちの文化水準が、とりも直さず、日本の婦人の文化的水準の・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 比較的芝居は観る方で、演芸画報をかかさずとっていたが、有名な沢正を観たのは、お孝さんのすすめによってであった。帰って来て、「あれは、どうして熱がある。あの男は相当のものだ」と云ったりしていた。「あの熱のあるところが、お孝さ・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・青年団のどこでもがこの頃はさかんに演芸会をやっている。失われた笑いと大声で遠慮なく喋ることと、人前に立って遠慮なく振舞う自由さを若者らしい陽気な演芸会が振りまき始めている。自分をどういう形にして、正直に表現して行くという大切な人間らしい習慣・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・モスクワの方は劇場を持っていないが郊外にあるコンムーナの家で厳格な稽古、政治的な勉強をやりながら活溌に移動演芸団として多くの倶楽部を廻って皆を喜ばしている。その時「トラム」は革命劇場でやったが偉い人気だ。吾々なんか二度も切符を買いに行ったが・・・ 宮本百合子 「ソヴェト「劇場労働青年」」
出典:青空文庫