近藤君は漫画家として有名であった。今は正道を踏んだ日本画家としても有名である。 が、これは偶然ではない。漫画には落想の滑稽な漫画がある。画そのものの滑稽な漫画がある。或は二者を兼ねた漫画がある。近藤君の漫画の多くは、こ・・・ 芥川竜之介 「近藤浩一路氏」
・・・こういう時の男の起居挙動は、漫画でないと、容易にその範容が見当らない。小県は一つ一つ絵馬を視ていた。薙刀の、それからはじめて。―― 一度横目を流したが、その時は、投げた単衣の後褄を、かなぐり取った花野の帯の輪で守護して、その秋草の、幻に・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・全国で一ばん若年の県会議員だったそうで、新聞には、A県の近衛公とされて、漫画なども出てたいへん人気がありました。 長兄は、それでも、いつも暗い気持のようでした。長兄の望みは、そんなところに無かったのです。長兄の書棚には、ワイルド全集、イ・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・あとでひとりで楽しまむものと、机の引き出し、そっと覗いてみたときには、溶けてしまって、南天の赤い目玉が二つのこっていたという正吉の失敗とかいう漫画をうちの子供たち読んでいたが、美しい追憶も、そんなものだよ、パッション失わぬうちに書け、鉄は赤・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・結局、日記帳は買い求めても、漫画をかいたり、友人の住所などを書き入れるくらいのもので、日々の出来事を記すことはできない。けれども、家の者は、何やら小さい手帖に日記をつけている様子であるから、これを借りて、それに私の註釈をつけようと決心したの・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・僕にとっては、その屋台に行くのは、その夜がはじめてでしたが、しかし、その店はあの辺の新聞記者や雑誌記者、また作家、漫画家などの社交場みたいになっていて、焼酎を飲み、煙草を吸い、所謂その日その日の「ホットニュウス」を交換し合い、笑い興じている・・・ 太宰治 「女類」
・・・日本画家、洋画家、彫刻家、戯曲家、舞踏家、評論家、流行歌手、作曲家、漫画家、すべて一流の人物らしい貫禄を以て、自己の名前を、こだわりなく涼しげに述べ、軽い冗談なども言い添える。私はやけくそで、突拍子ない時に大拍手をしてみたり、ろくに聞いても・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・上衣だけなら漫画ものだ。」「それでは、やはり、タオルの類かね?」「いや、洗いたての、男の浴衣だ。荒い棒縞で、帯は、おなじ布地の細紐。柔道着のように、前結びだ。あの、宿屋の浴衣だな。あんなのがいいのだ。すこし、少年を感じさせるような、・・・ 太宰治 「雌に就いて」
・・・これじゃ僕は、漫画家になるより他は無い。」 私は、杉野君にも、またモデルのひとにも、両方に気の毒でその場で、立って見ている事が出来ず、こっそり家へ帰ってしまった。 それから十日ほど経って、きのうの朝、私は吉祥寺の郵便局へ用事があって・・・ 太宰治 「リイズ」
・・・新聞の漫画を見ていると、野良のむすこが親爺の金を誤魔化しておいて、これがレラチヴィティだなどと済ましているのがある。こうなってはさすがのアインシュタインも苦い顔をしている事であろう。 我邦ではまだそれほどでもないが、それでも彼の名前は理・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫