・・・それに、子供がうまれて以来、フラウが肺病、私が肺病で、火の車にちかい。であるから、三〇で、がまんしてくれ。そして、出来るなら返して呉れ。こっちがイノチがけになってしまうから。文壇ゴシップ、小説その他に於ける君の生活態度がどんなものかを大体知・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・、それはまあ黒石の山本の家は、お城下まちの地主さんで、こんな田舎の漁師まちの貧乏な家とは、くらべものにならないくらい大きい立派なお屋敷に違いございませんけれど、なあに地主さんだって、今では内証はみんな火の車だそうじゃありませんか。昔からあの・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・けれど有難くないの何のと贅沢をいって見たところで、諸行無常老少不定というので鬼が火の車引いて迎えに来りゃ今夜にも是非とも死ななければならないヨ。明日の晩実は柳橋で御馳走になる約束があるのだが一日だけ日延してはくれまいかと願って見たとて鬼の事・・・ 正岡子規 「墓」
・・・みな不思議なからくりで非常に猛烈な火の車でどうやらやっているのです。そんなような状態ですから、ましてお金をもっている人達の頭のよさ、それから社会に力をもっていることは猛烈なものです。ですから皆さんのお召しになっているようなもの、食べ物をつく・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
出典:青空文庫