・・・ 何でも月曜か火曜だったがね。久しぶりに和田と顔を合せると、浅草へ行こうというじゃないか? 浅草はあんまりぞっとしないが、親愛なる旧友のいう事だから、僕も素直に賛成してさ。真っ昼間六区へ出かけたんだ。――」「すると活動写真の中にでもい合・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・ 十月十八日、火曜。午後に子供を一人つれて、日暮里の新開町を通って町はずれに出た。戦争のためにできたらしい小工場が至るところに小規模な生産をやっている。ともかくも自分の子供の時にはみんな貴重な舶来物であった品物が、ちゃんとここらのこ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・だというのでまた店をとじる。火曜になってようやくもとに復する例である。内の夫婦は御祭中田舎の妻君の里へ旅行した。田中君は「シェクスピヤ」の旧跡を探るというので「ストラトフォドオンアヴォン」と云う長い名の所へ行かれた。跡は妻君の妹と下女のペン・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 多分月曜か火曜であったと思うが午後から小雨がして、学校から帰って来た頃は気が重くて仕様がなかった。 それに、昨夜の予定がすっかり狂って、あんな事のために大切な一日分の仕事がずって来たと云う事も不快で、今夜は、どんなにせわしなくても・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・箇人教授をしているのだが、藍子の他に彼に弟子は無く、またあったとしても無くなるのが当然な程、彼はずぼらな男であった。火曜と木曜の稽古の日藍子が彼の二階へ訪ねて行ってもいない時がよくあった。昨日からお帰りにならないんですよ。階下の神さんが藍子・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫