・・・ 修錬の極致に至りますると、隠身避水火遁の術などはいうまでもございませぬ、如意自在な法を施すことが出来るのだと申すことで。 ある真言寺の小僧が、夜分墓原を通りますと、樹と樹との間に白いものがかかって、ふらふらと動いていた。暗さは暗し・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・場を現出す 死後の座は金きんかんたんを分ち 生前の手は紫鴛鴦を繍ふ月げつちん秋水珠を留める涙 花は落ちて春山土亦香ばし 非命須らく薄命に非ざるを知るべし 夜台長く有情郎に伴ふ 犬山道節火遁の術は奇にして蹤尋ねかたし 荒芽山畔・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
火遁巻 千曲川に河童が棲んでいた昔の話である。 この河童の尻が、数え年二百歳か三百歳という未だうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙人で狐狸かためた新手村では、信州にかくれもなき怪しげな年中行事が行われ、毎年大晦日の夜・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
出典:青空文庫