・・・オオスミチユウタロウ 同時に電報為替で百円送られて来たのである。 彼が渡支してから、もう五年。けれども、その五年のあいだに、彼と私とは、しばしば音信を交していた。彼の音信に依れば、古都北京は、まさしく彼の性格にぴったり合った様子・・・ 太宰治 「佳日」
・・・もう、だめだ、と思う、そのとき、電報為替が来る。あによめからである。それにきまっている。三十円。私はそのとき、五十円ほしかった。けれども、それは慾である。五十円と言えば大金である。五十円あれば、どこかの親子五人が、たっぷりひとつきにこにこし・・・ 太宰治 「花燭」
・・・この女は、信州にたった一人の肉親の弟があるとか言って、私の集めて来るお金はたいていその弟のところへ為替で送られるのでした。そうして、私の顔を見るとすぐ、金、金、金と言うのです。私はこの女に金を与えるために、強盗、殺人、何でももう、やってやろ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・拝啓。為替三百円たしかにいただきました。こちらへ来てから、お金の使い道がちっとも無くて、あなたからこれまで送っていただいたお金は、まだそっくりございます。あなたのほうこそ、いくらでもお金が要るでございましょうに、もうこれからは、お金をこちら・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・ それだから年号と年数と干支とを併記して或る特定の年を確実不動に指定するという手堅い方法にはやはりそれだけの長所があるのである。為替や手形にデュープリケートの写しを添えるよりもいっそう手堅いやり方なのである。 年の干支と同様に日の干・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかし為替が来なくっては本も買えん、少々閉口するな、そのうち来るだろうから心配する事も入るまい、……ゴンゴンゴンそら鳴った。第一の銅鑼だ、これから起きて仕度をすると第二の「ゴング」が鳴る。そこでノソノソ下へ降りて行って朝食を食うのだよ。起き・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・が便宜を計ってくれてね、会計に居た津田なんて男――大胆な、悪賢い人でしたが、随分危険な真似するのよ、津田さんお花見に行きたいんだが金を都合して来て下さい、十五円て云うとね、うん、よしって、社の方へ沢山為替や何か来るでしょう? それを一寸融通・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・洋書の輸入は為替その他の理由で特別な狭い範囲だけ許されていて、一般の人の勝手には行かない。益々一般の文化が世界を知りたいのに、それを知る方法を有っているのは特殊な少数ということになって来ている。 それなら眼を国内に向けて、せめては身のま・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・国男がいそいで引かえし、特急に間に合わせようとしたが到頭駄目であったので、金は電報為替にして送り、紙入その他は又別に送ったりした由。この秋、父は何年ぶりかで、計らず最後となった奈良の古美術足脚をしたのであった。・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・外国の市民の生活と日本の人民の生活とを比較するような機会は、戦争の必要としないことであったから、輸送とか、為替関係とかの名目によって、出版物の国際的な交換は禁止された。こういう状態の下に置かれた私どもが、どうして自分達がおかれた事情の法外さ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫