・・・朱漆で塗った地に黒漆でからすの絵を描いたその下に烏丸枇杷葉湯と書いた一対の細長い箱を振り分けに肩にかついで「ホンケー、カラスマル、ビワヨーオートー」と終わりの「ヨートー」を長く清らかに引いて、呼び歩いていたようにも思うし、また木陰などに荷を・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・妹には稲葉一通に嫁した多羅姫、烏丸中納言光賢に嫁した万姫がある。この万姫の腹に生まれた禰々姫が忠利の嫡子光尚の奥方になって来るのである。目上には長岡氏を名のる兄が二人、前野長岡両家に嫁した姉が二人ある。隠居三斎宗立もまだ存命で、七十九歳にな・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・景一は京都赤松殿邸にありし時、烏丸光広卿と相識に相成りおり候。これは光広卿が幽斎公和歌の御弟子にて、嫡子光賢卿に松向寺殿の御息女万姫君を妻せ居られ候故に候。さて景一光広卿を介して御当家御父子とも御心安く相成りおり候。田辺攻の時、関東に御出遊・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫