・・・そうして、所謂官軍は、所謂賊軍を、「すべて烏合の衆なるぞ」と歌って気勢をあげる。謀叛は、悪徳の中でも最も甚だしいもの、所謂賊軍は最もけがらわしいもの、そのように日本の世の中がきめてしまっている様子である。謀叛人も、賊軍も、よしんば勝ったとこ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・さて、なんの覚悟もない烏合の衆の八十人ではおそらく一坪の物置きの火事でも消す事はできないかもしれないが、しかし、もしも充分な知識と訓練を具備した八十人が、完全な統制のもとに、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・さて、何の覚悟もない烏合の衆の八十人ではおそらく一坪の物置の火事でも消す事は出来ないかもしれないが、しかし、もしも十分な知識と訓練を具備した八十人が、完全な統制の下に、それぞれ適当なる部署について、そうしてあらかじめ考究され練習された方式に・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 向こうところに敵なくして剣の力で信仰と権勢を植え付けて行った半生の歴史はそれほど私の頭に今残っていないが、全盛の頂上から一時に墜落してロシアに逃げ延び、再びわずかな烏合の衆を引き連れてノルウェーへ攻め込むあたりからがなんとなく心にしみ・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・いわゆる肉体小説、風俗小説の作者から、共産党員である作家・批評家までを包括して持たれる懇談会は、ただそれらの各種の人たちが、もちこして来ているめいめいの型のままで、一堂によりあつまったというだけでは、烏合であろう。そこから去ってしまえば、そ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・人民戦線の実体は、決して利益にあつまる烏合の衆ではないのである。〔一九四六年二月〕 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・は伏見鳥羽の戦いに敗れて落ちめになってからの近藤勇と土方歳三とが、新撰組の残りを中心とする烏合の勢をひきいて甲陽鎮撫隊をつくり、甲州城にのり込もうと進むところを、勝沼で官軍に先手をうたれて包囲された物語である。風雲児的な近藤、土方が戦いを一・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫